インフォーム要件と契約実務
経済産業大臣の通知によって働くインフォーム要件の意味と、取引契約での subject to government 条項による備え方を学びます。
この節で学ぶこと
- インフォーム要件とは何かを、正式な言い方で説明できるようになります。
- インフォームを受けたあとは、相手の用途が平和なものでも許可の申請がいる、という点を理解できるようになります。
- インフォームによる契約上のリスクと、それにそなえる工夫を、説明できるようになります。
覚えること
- インフォーム要件とは、経済産業大臣から、輸出許可または役務取引許可の申請をすべき旨の通知(インフォーム)を受けた場合をいいます。
- この通知は、輸出や技術提供をするより前に届きます。輸出したあとで通知が来ることはありません。輸出者が法人のときは、代表者あてに文書で届きます。
- インフォームを受けたら、たとえ相手の用途が平和なものだと輸出者が考えても、許可の申請が必要です。
- インフォームを受けると、契約を予定どおり実行できなくなり、損害賠償を求められることがあります。これにそなえて、政府の許可が下りることを取引の条件とする条項を、契約書にあらかじめ入れておくのが一般的です。
1. なぜそうなるのか
3.1 インフォーム要件とは
キャッチオール規制で許可がいるかどうかを決める入口は、2つあります。1つは、輸出者が自分で情報を確かめて気づく客観要件です。もう1つが、この節で学ぶインフォーム要件です。
インフォーム要件とは、経済産業大臣から、輸出許可または役務取引許可の申請をすべき旨の通知を受けた場合をいいます。この通知のことを、英語のinform(知らせる)から「インフォーム」とよびます。輸出者が自分で気づく客観要件とは違い、インフォーム要件は、国のほうから「この取引は許可の申請が必要です」と知らせてくる入口です。
この通知には、時期の決まりがあります。通知は、輸出や技術提供をするより前に届きます。輸出したあとになって「あの取引は許可が必要だった」と通知が来ることはありません。また、輸出者が法人のときは、担当者あてではなく、会社の代表者あてに、文書で届きます。ですから、代表者あてに文書で通知が届いていれば、それがインフォームにあたります。
なお、経済産業大臣が実際にインフォームを行った例は、これまでに数十件あります。めったにないことですが、起こりうることとして知っておく必要があります。
3.2 インフォームを受けたら、民生用途でも許可がいる
ここが、客観要件との大きな違いです。客観要件では、用途が平和なものだと明らかにできれば、許可はいりませんでした。しかし、インフォームを受けた場合は、話が変わります。
インフォームを受けたら、たとえ相手の用途が民生用途、つまり平和な使い道だと輸出者が判断しても、許可の申請が必要です。国が「この取引は申請が必要だ」と正式に知らせている以上、輸出者の側の判断で申請をやめることはできないからです。「自分では平和な用途だと思うから申請しなくてよい」とは考えないようにしましょう。
3.3 契約での備え(政府の許可を条件とする条項)
インフォームは、契約の実務にも影響します。すでに結んだ契約の途中でインフォームを受けると、許可が下りるまで品物を送れなくなります。その結果、契約を予定どおりに実行できなくなったり、実行が遅れたりします。これを、契約を守れない状態(履行不能や履行遅滞)といいます。相手から見れば約束が果たされないので、損害賠償を求められることがあります。金額が大きくなることもあります。
このリスクにそなえるため、契約書にあらかじめ1つの条項を入れておくのが一般的です。それは、政府の許可が下りることを取引の条件とする、という条項です。英語ではsubject to government条項(政府の許可を条件とする条項)とよびます。この条項を入れておけば、インフォームを受けて許可が下りない場合でも、それは契約の条件を満たさなかっただけであり、約束を破ったことにはならない、と整理できます。こうして、損害賠償などのリスクをやわらげます。
2. 注意すべきこと
試験で気をつける点
- インフォーム要件の主体は「経済産業省」ではなく「経済産業大臣」です。だれが通知するのかを正確に押さえましょう。
- インフォーム要件は「需要者から連絡があったこと」ではありません。需要者からの連絡は、客観要件の話です。インフォーム要件は、国(経済産業大臣)から輸出者への通知を指します。この2つを取り違えないようにしましょう。
- 通知は輸出より前に届きます。輸出後に届くことはありません。
- インフォームを受けたあとは、輸出者が民生用途だと考えても許可の申請が必要です。客観要件の「明らかなら不要」という考え方を、そのまま当てはめないようにしましょう。
- インフォーム要件は、大量破壊兵器キャッチオール規制にも、通常兵器キャッチオール規制にもあります。どちらの規制でも働く入口だと押さえておきましょう。
実務で気をつける点
- インフォームを受けると、契約を予定どおり実行できず、損害賠償を求められることがあります。これにそなえて、政府の許可が下りることを取引の条件とする条項(subject to government条項)を、契約書にあらかじめ入れておきましょう。
3. 根拠法令
e-Gov突合:済(2026-08-05)。輸出令・貿易外省令・核兵器等開発等省令・通常兵器開発等省令を e-Gov 法令API v2 で取得し、改正前(asof=2025-10-01)と現行を条文で突き合わせて確認しました。告示・通達は法令APIの対象外のため未突合です。当たり先は経済産業省の公表資料です。
- 貨物のインフォーム要件は、輸出令第4条第1項第三号(16の項(一))と第四号(16の項(二))のロ(大量破壊兵器キャッチオール規制)とニ(通常兵器キャッチオール規制)に定められています。いずれも「経済産業大臣から許可の申請をすべき旨の通知を受けたとき」と規定しています。
- グループA(輸出令別表第3の地域)向けは、輸出令第1条第3項が外為法第48条第2項にもとづく許可の義務を課し、第4条第2項がインフォームを受けていない場合は適用しないと定めています。結果として、グループA向けはインフォーム要件だけが働きます。これは令和7年10月9日に施行された改正で入りました。
- 技術のインフォーム要件は、貿易外省令第9条第2項第七号(16の項(一)に対応)と第八号((二)に対応)のロとニに、貨物と同じかたちで定められています。どちらの号も、グループA向けの取引ではロとニだけが働くと定めています。
- 政府の許可を条件とする条項(subject to government条項)は、法令の要件ではありません。インフォームによる履行不能や損害賠償のリスクにそなえる、契約実務上の工夫です。
分からなかった点・気になった点
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この章の問題を解く
章のまとめへ- X社の担当者は、仕向地をグループA・国連武器禁輸国・それ以外の3つの層に分けて確かめた。この3つの層は、対象か対象外かを分ける線ではなく、働く要件の数を変える線である。解く
- X社の担当者が輸出令の別表を確かめたところ、別表第3(グループA)に掲げる地域は27か国、別表第3の2(国連武器禁輸国)に掲げる地域は10か国だった。解く
- 国連武器禁輸国は、非グループAとは別の枠として扱われる解く
- X社は、16の項に該当する貨物を大韓民国のY社へ輸出する。大韓民国は2023年7月に輸出令別表第3の地域(グループA)へ加えられ、現在も同表に掲げられている。解く
- X社が16の項(一)の貨物の輸出先を調べたところ、需要者Yが通常兵器の開発を行っていることが分かった。通常兵器の需要者要件は、通常兵器開発等省令の第二号(需要者が開発等を行う旨)と第三号(需要者が開発等を行った旨)が定めている。解く