大量破壊兵器の不拡散とレジームへの継承
冷戦後の輸出管理が不拡散型へ転換した経緯と、国連安保理決議第1540号が持つ法的な意味を追い、国際条約と4つの国際輸出管理レジームの役割の違いを説明できるようになります。
この節で学ぶこと
- 冷戦後の輸出管理が、封じ込め型から不拡散型へ転換した経緯を説明できるようになります。
- 調達の主体が国家から非国家主体へ広がったことと、国連安保理決議第1540号の法的な意味を説明できるようになります。
- 国際条約と国際輸出管理レジームの違いを、法的拘束力と規制の対象の2つの観点で説明できるようになります。
- 4つの国際輸出管理レジームの名称と、それぞれが担当する分野の対応を説明できるようになります。
覚えること
- 冷戦後の輸出管理の主流は、大量破壊兵器等の拡散を防ぐ不拡散型の管理です。特定の相手を封じ込めたCOCOMとは性格が異なります。
- 国際的な合意は2つの系統に分かれます。兵器そのものを禁止、制限する国際条約と、汎用品の輸出管理をそろえる国際輸出管理レジームです。
- 国際輸出管理レジームは、法的拘束力を持たない紳士協定です。合意は各国の国内法令に反映されて初めて、企業や個人を拘束します。
- 通常兵器分野のワッセナー・アレンジメント(WA)は、COCOMの役割を引き継いで1996年に発足しました。
1. 不拡散への転換点になった出来事
冷戦の末期から冷戦後にかけて、輸出管理の性格を変える出来事が続きました。時系列で並べると、管理の重心が「特定の相手」から「大量破壊兵器の拡散」へ移っていく流れが見えます。
| 年 | 出来事 | 輸出管理への影響 |
|---|---|---|
| 1974年 | インドが核実験を実施 | 核関連の輸出管理をそろえる NSG 発足(1978年)の契機になった |
| 1980年から1988年 | イラン・イラク戦争で化学兵器やミサイルが使用された | AG 発足(1985年)と MTCR 発足(1987年)の契機になった |
| 1991年 | 湾岸戦争。戦後の IAEA の査察でイラクの大量破壊兵器の開発計画が判明 | リストに載らない汎用品を捉えるキャッチオール型規制導入の契機になった |
| 1991年 | ソ連が崩壊 | COCOM解消(1994年3月)につながった |
| 1996年 | ワッセナー・アレンジメント(WA)が発足 | COCOMの通常兵器分野の役割を不拡散型の枠組みで継承した |
| 2001年 | アメリカ同時多発テロ | テロリストなど非国家主体への拡散防止が新たな課題になった |
| 2004年 | 国連安保理決議第1540号を全会一致で採択 | 輸出管理を含む拡散防止の措置が全加盟国の義務になった |
この転換の意味を一言で述べると、次のようになります。冷戦期は「誰に売らないか」がはっきりしていました。冷戦後は、拡散の懸念がある国家やテロリストが世界に散らばり、「何が、どんな用途に、誰の手に渡るのか」を取引ごとに見なければならなくなりました。
調達の主体そのものも変わりました。冷戦期は国家と国家の対立でしたが、現代は、統治が行き届かない破綻国家や、国境をまたぐテロ組織、密輸ネットワークが調達の主体になり得ます。国連安保理決議第1540号は、この非国家主体への拡散を防ぐための決議です。国連憲章第7章に基づいて採択されており、レジームや条約に加盟していない国も含め、国連の全加盟国に対して、拡散防止に資する国内法の整備、輸出管理の実施、国境管理の強化を義務づけています。国際的な安全保障理事会の決議が、加盟国の国内立法を義務づけるという意味で、安全保障理事会による「立法」と呼ばれることもあります。輸出管理が、特定の国だけでなく世界共通の標準になった根拠は、この決議にあります。
日本もこの流れを受けて、2002年4月にキャッチオール規制を導入しました。規制リストに載らない貨物や技術でも、大量破壊兵器等の開発に使われるおそれがある場合に許可を求める制度で、イラクの査察で判明した教訓に応えるものです。
2. 国際条約という枠組み
大量破壊兵器そのものは、国家間の条約で禁止、制限されています。条約は批准した国を法的に拘束します。
| 略称 | 正式名称 | 対象 | 発効 |
|---|---|---|---|
| NPT | 核兵器不拡散条約 | 核兵器の保有国の拡大を防ぎ、原子力の平和利用を進める | 1970年 |
| BWC | 生物兵器禁止条約 | 生物兵器の開発、生産、貯蔵を禁止する | 1975年 |
| CWC | 化学兵器禁止条約 | 化学兵器の開発、生産、貯蔵、使用を禁止する | 1997年 |
3. 国際輸出管理レジームという枠組み
条約が兵器そのものを対象にするのに対し、兵器の開発や製造に使える汎用品の輸出管理をそろえるのが、国際輸出管理レジームです。参加国が規制品目のリストと運用の方針を協議して合意し、各国が国内の法令で実施します。
| 略称 | 名称 | 担当する分野 | 発足 |
|---|---|---|---|
| NSG | 原子力供給国グループ | 核兵器関連の資機材と汎用品 | 1978年 |
| AG | オーストラリア・グループ | 生物兵器、化学兵器の原材料と製造装置 | 1985年 |
| MTCR | ミサイル技術管理レジーム | 大量破壊兵器を運搬できるミサイルと関連汎用品 | 1987年 |
| WA | ワッセナー・アレンジメント | 通常兵器と機微な汎用品 | 1996年 |
4つのレジームは、大量破壊兵器の3分野(核、生物・化学、ミサイル)と通常兵器という分担になっています。大量破壊兵器の分類と対応づけて覚えると、名称と分野の組み合わせを取り違えにくくなります。
レジームの合意には法的拘束力がありません。それでも実効性があるのは、参加国が合意を国内の法制度に反映する責務を負い、実際に反映しているからです。日本の場合、レジームで合意された品目は、外国為替及び外国貿易法(以下、外為法)の下の政省令の規制リストに反映されます。
4. 注意すべきこと
試験で気をつける点
- 条約とレジームの混同が最も問われやすい点です。「ワッセナー・アレンジメントは法的拘束力を持つ条約である」という記述は誤りです。逆に、NPT、BWC、CWC は条約であり、レジームではありません。
- レジームの名称と担当分野の組み替えに注意しましょう。たとえば「AG はミサイル関連の輸出管理を行う枠組みである」は誤りで、AG の担当は生物兵器と化学兵器の関連品目です。
- 「レジームの合意は、参加国の企業を直接拘束する」という記述は誤りです。合意は各国の国内法令に反映されて初めて、企業を拘束します。
5. 理解度の確認
次の記述が正しいか、誤りかを判断してみましょう。
問1 国際輸出管理レジームは、参加国を法的に拘束する国際条約である。
答え: 誤りです。レジームは法的拘束力を持たない紳士協定であり、法的拘束力を持つのは NPT などの国際条約です。
問2 ワッセナー・アレンジメント(WA)は、COCOMの通常兵器分野の役割を引き継いで1996年に発足した。
答え: 正しいです。ただし WA は特定の相手を封じ込める枠組みではなく、懸念のある移転を防ぐ不拡散型の枠組みです。
問3 国連安保理決議第1540号により、輸出管理を含む大量破壊兵器の拡散防止の措置は、国連の全加盟国が実施すべき義務になった。
答え: 正しいです。2004年に採択された同決議は、非国家主体への拡散防止を念頭に、法整備や輸出管理の実施を全加盟国に義務づけました。
問4 国連安保理決議第1540号による義務は、NSGやAGなどの国際輸出管理レジームに参加している国だけが負う。
答え: 誤りです。同決議は国連憲章第7章に基づいて採択されており、レジームや条約に加盟していない国も含め、国連の全加盟国に義務を課しています。
分からなかった点・気になった点
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この章の問題を解く
章のまとめへ- COCOMは、1949年に発足した、西側諸国による共産圏向けの輸出統制の枠組みである。解く
- COCOMは、参加国を法的に拘束する条約であった。解く
- COCOMの性格は、共産圏という特定の相手を定めて流出を防ぐ、封じ込め型の輸出管理であった。解く
- COCOMは現在も存続しており、日本も参加している。解く
- 1987年に発覚した東芝機械COCOM違反事件は、日本の輸出管理体制を強化する転機になった。解く