迂回輸出と国際情勢の不安定化
第三国を経由して規制品を懸念のある需要者へ届ける迂回輸出の手口を知り、拡散が安全保障のジレンマや二次制裁を通じて国際情勢と輸出企業に及ぼす影響を説明できるようになります。
この節で学ぶこと
- 迂回輸出の意味と、その典型的な手口を、商流・物流・代金の流れが分かれる具体例とあわせて説明できるようになります。
- 実際に起きた迂回輸出の事例から、正規の取引がどのように兵器開発へつながるのか、そして隠蔽の手口と経営への打撃を説明できるようになります。
- 兵器と関連品の拡散が、安全保障のジレンマと二次制裁のリスクを通じて、国際情勢と輸出企業のそれぞれに何をもたらすかを説明できるようになります。
覚えること
- 迂回輸出(うかいゆしゅつ)とは、規制や監視の緩い第三国を経由するなどして、本来は許可が必要な貨物や技術を、懸念のある需要者へ届ける手口です。
- 典型的な手口には、第三国経由、フロント企業の利用、用途の偽装、小口分割があります。
- 輸出者が確認すべきなのは、書類上の仕向地や契約の相手だけではありません。最終的に誰が使うのか(最終需要者)と、何に使うのか(最終用途)まで確認する必要があります。
1. 迂回輸出の構造
輸出管理の網は、懸念のある国や需要者への直接の輸出であれば捉えやすくなっています。そこで調達側は、経路の途中に第三国をはさみ、取引の見た目を正常な民生の商談に変えます。
手口は、大きく次の4つの型に分けられます。
- 第三国経由。規制や運用の緩い国や地域の取引先をいったん経由させ、最終仕向地を隠します。
- フロント企業の利用。軍事関連の機関が、民生の商社や現地法人を装った調達窓口を使います。
- 用途の偽装。民生用と説明して調達し、実際には兵器の開発や製造に使います。
- 小口分割。まとまった数量では不審に見える取引を、少量ずつ複数の経路に分けて調達します。
どの型にも共通するのは、輸出者から見える範囲だけでは取引が正常に見える、という点です。だからこそ、輸出者は、見える範囲の外にある最終需要者と最終用途を自分から確かめる姿勢を持ちます。
実務で疑いの目を向けるべきなのは、商流と物流と代金の流れが不自然に分かれている取引です。たとえば、発注元は第三国の貿易商社、代金の決済は別の国の銀行を経由し、納入先はさらに別の国の倉庫、という構図では、契約書だけを見ても取引全体の姿はつかめません。小口分割も、規制の基準を下回る量に分けて複数の関連会社から別々に輸出し、現地でまとめて組み立てる形を取れば、1件ずつの取引は正常に見えます。契約の相手・代金の支払者・納入先が一致しないときは、それぞれの国と当事者を個別に確かめる必要があります。
2. 実際に起きた事例
迂回輸出は、日本企業が当事者になった実例があります。精密測定機器メーカーが2001年に起こした無許可輸出の事案です。
このメーカーは、規制対象の性能を持つ高精度の三次元測定機を、経済産業省の許可を得ないままマレーシアの現地法人へ輸出しました。測定機はその後、現地の精密機器メーカーへの販売を経てリビアに渡りました。2003年末から国際原子力機関(IAEA)がリビアで行った査察により、この測定機はウラン濃縮用遠心分離機の開発拠点で発見されました。転売にかかわった企業には、核関連の資機材を闇で仲介する国際的な調達網とのつながりが指摘されています。
隠蔽の手口も明らかになっています。このメーカーは、測定機の実際の性能を、規制の水準を下回ると偽って申告し、その前提で通商産業省(当時)から包括的な輸出許可を取得していました。偽った申告を土台にした許可のもとで、約10年にわたり多数の測定機が輸出されていました。書類上は許可された取引に見えても、その前提となる性能の申告そのものが偽りだったことになります。
2006年に社長を含む経営陣が外国為替及び外国貿易法(以下、外為法)違反で逮捕され、会社は行政処分を受けました。処分は2段階で、まず全貨物の輸出を一定期間禁止し、続けて対象の測定機とその部分品の輸出を、確定した需要者への直接輸出を除いて禁止するというもので、合わせて3年近くに及びました。経営トップの逮捕と長期の輸出禁止は、輸出管理の不備が現場の事務手続きの問題にとどまらず、経営そのものを揺るがす事態になり得ることを示しています。
この事例が示すのは、次の2点です。輸出の時点で見えていたのは自社の現地法人への出荷にすぎないのに、経路の先は核兵器の開発拠点まで届いていたこと。そして、無許可輸出という違反そのものが、経営陣の刑事責任と長期の輸出禁止処分という形で会社の事業に跳ね返ったことです。
3. 拡散が国際情勢を不安定にする流れ
迂回輸出が成功すると、兵器と関連品の拡散が進みます。拡散が国際情勢を不安定にする流れは、次のように進みます。
大量破壊兵器や高性能な兵器を手にした国家は、周辺国への軍事的な威圧を強めます。周辺国は対抗のために軍備を増強し、地域の緊張が高まります。1国の軍備増強が周辺国の対抗的な増強を招き、双方の意図とは関係なく緊張がさらに高まっていく、この悪循環は安全保障のジレンマと呼ばれます。緊張の高まりは偶発的な衝突や紛争の危険を引き上げ、紛争は難民の発生や経済の混乱を通じて、地域の外にも影響を広げます。テロリストのような非国家主体に兵器が渡れば、脅威は特定の地域にとどまらなくなります。
拡散の出発点に自社の製品があった場合、輸出企業も無傷ではいられません。外為法違反には刑事罰と、輸出禁止などの行政制裁があります。処分に加えて、自社製品が兵器開発の現場で見つかったという事実は報道され、取引先や社会からの信用を失います。拡散に関与したとみなされた企業は、日本国内の処分だけでは終わりません。アメリカなどが独自に科す制裁(二次制裁)の対象になれば、その企業自身が制裁対象と直接取引していなくても、ドル建ての決済網や、制裁国の市場から締め出されるおそれがあります。違反した企業だけでなく、日本の輸出管理そのものへの国際的な信頼も傷つきます。
4. 注意すべきこと
試験で気をつける点
- 「仕向地が輸出管理体制の整った国であれば、迂回輸出の懸念を考える必要はない」という記述は誤りです。中継先には、規制の緩い国だけでなく、管理体制の整った国の企業が使われることもあります。
実務で気をつける点
迂回輸出の兆候には、次のような例があります。1つでも当てはまれば直ちに違反というわけではありませんが、立ち止まって確認する合図になります。
- 製品の性能への不自然なこだわり
- 用途の説明を避ける態度
- 契約の相手と代金の支払者が異なる構図
- 不自然に複雑な納入経路
- 合理的な理由のない急な決済条件の変更
ポイント
仕向地がレジーム参加国であっても安心はできません。リスト規制の貨物は、レジーム参加国向けの輸出でも許可が必要です。さらに、中継先での転売や再輸出によって最終仕向地が変わることがあります。書類上の仕向地ではなく、最終需要者と最終用途を確かめることが、迂回輸出への基本の備えです。
5. 理解度の確認
次の記述が正しいか、誤りかを判断してみましょう。
問1 迂回輸出とは、規制や監視の緩い第三国を経由するなどして、許可が必要な貨物や技術を懸念のある需要者へ届ける手口をいう。
答え: 正しいです。迂回輸出では、第三国経由のほか、フロント企業の利用、用途の偽装、小口分割といった手口が組み合わさります。
問2 輸出者は、契約書に記載された仕向地と取引の相手を確認すれば、迂回輸出への備えとして十分である。
答え: 誤りです。書類上の仕向地と相手だけでは中継先までしか見えないため、最終需要者と最終用途まで確認する必要があります。
問3 日本企業が輸出した貨物が、第三国を経由して大量破壊兵器の開発拠点に渡った実例が確認されている。
答え: 正しいです。無許可で輸出された高精度の三次元測定機が、マレーシアを経由してリビアのウラン濃縮用遠心分離機の開発拠点で発見された事案があります。
問4 精密測定機器メーカーの無許可輸出事案では、測定機の性能を実際より高く申告したことが輸出許可を得た手口だった。
答え: 誤りです。実際の性能を規制の水準を下回ると偽って申告し、その前提で包括的な輸出許可を取得していました。実際より高くではなく、低く見せかけたことが手口です。
問5 拡散に関与したとみなされた企業は、日本国内の行政処分だけを心配すればよく、外国の制裁の対象になることはない。
答え: 誤りです。アメリカなどが独自に科す制裁(二次制裁)の対象になれば、その企業自身が制裁対象と直接取引していなくても、ドル建ての決済網や制裁国の市場から締め出されるおそれがあります。
分からなかった点・気になった点
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この章の問題を解く
章のまとめへ- COCOMは、1949年に発足した、西側諸国による共産圏向けの輸出統制の枠組みである。解く
- COCOMは、参加国を法的に拘束する条約であった。解く
- COCOMの性格は、共産圏という特定の相手を定めて流出を防ぐ、封じ込め型の輸出管理であった。解く
- COCOMは現在も存続しており、日本も参加している。解く
- 1987年に発覚した東芝機械COCOM違反事件は、日本の輸出管理体制を強化する転機になった。解く