公知の技術と基礎科学分野の研究活動の特例
既に公開されている技術の提供と公開を目的とする提供を許可不要とする第九号の特例、および基礎科学分野の研究活動の第十号の特例を、要件と除外まで含めて判断できるようになります。
この節で学ぶこと
- 公知の技術の特例(第九号)の要件と、公知の5つの形を説明できるようになります。
- 基礎科学分野の研究活動の特例(第十号)の線引きを判断できるようになります。
覚えること
- 公知の技術の特例(貿易外省令第9条第2項第九号)は、2つの取引を対象にします。
- 既に公知の技術を提供する取引。
- 技術を公知とするために提供する取引。学会発表用の原稿の送付や雑誌への投稿がこれにあたります。
- ただし特定の者に提供することを目的として公知とする取引は除かれます。形だけ公開の体裁を取り、実際は特定の相手に渡す行為は特例になりません。
- 公知の形は号の中でイからホの5つに整理されています。新聞・書籍・ネットワーク上のファイル等での公開、学会誌・公開特許情報等、工場見学コース・講演会・展示会等、ソースコードが公開されているプログラム、公開を目的とする原稿送付・投稿等です。
- 基礎科学分野の研究活動の特例(同項第十号)は、その研究活動における技術の提供を許可不要にします。基礎科学とは、特定の製品の設計または製造を目的としない、原理や真理の探究に向けた活動を指します。
1. なぜ公知と基礎科学は許可が要らないのか
規制の目的は、管理の外へ渡っては困る技術の移転を止めることです。既に誰でも入手できる技術は、提供を止めても拡散は止まりません。規制する意味が無いのです。公開を目的とする提供も、学術の営みそのものであり、公開後は誰でも読める以上、事前に止める理由がありません。
基礎科学の特例も同じ発想です。特定の製品につながらない原理の探究は、兵器の設計・製造という規制の関心から遠い活動です。ただし、この線は活動の実質で引かれます。名目が基礎研究でも、特定の製品の設計に直結する開発は特例の外です。
2. 判断を誤りやすい場面
| 場面 | 判断 |
|---|---|
| 公開済みの学術論文を海外の研究者に送る | 公知の技術の提供。特例の対象 |
| 学会発表の原稿を、発表前に海外の共同研究者だけに送る | 特定の者への提供が目的なら特例の外。公知とするための提供(発表用の投稿)とは区別する |
| 社外秘の技術を、これから公開する予定だと説明して渡す | 予定は公知ではない。渡す時点で公知でなければ特例の対象外 |
| がんの新しい治療薬の研究開発で技術を共有する | 特定の製品(治療薬)の設計・製造が目的なら基礎科学の特例の外 |
| 地震の発生メカニズムの共同研究で解析技術を共有する | 特定の製品を目的としない探究なら基礎科学の特例の対象になりうる |
3. 注意すべきこと
試験で気をつける点
- 「いずれ公開する予定だから公知」という記述は誤りです。提供の時点で公知かどうかで判断します。
- 基礎科学かどうかは研究分野の名前でなく、特定の製品の設計・製造を目的とするかで判断します。
実務で気をつける点
- 公知の根拠(掲載誌・公開日・URL など)を、提供の記録とあわせて残します。公知の立証ができない提供は、特例の適用を後から示せません。
4. 根拠法令
- 貿易外省令第9条第2項柱書。「令第十七条第八項に規定する経済産業大臣が指定する取引は、次の各号のいずれかに該当する取引とする」と定めます。
- 同項第九号。「公知の技術を提供する取引又は技術を公知とするために当該技術を提供する取引(特定の者に提供することを目的として公知とする取引を除く。)であって、以下のいずれかに該当するもの」と定め、イからホの5つの形を列挙します。
- 同項第十号。「基礎科学分野の研究活動において技術を提供する取引」と定めます。
- 条文は e-Gov 法令検索(2025年11月15日施行時点の貿易外省令)で確認しています。
5. 理解度の確認
次の記述が正しいか、誤りかを判断してみましょう。
問1 学会誌に掲載済みの論文に含まれる技術を海外の研究者に提供する取引は、役務取引許可を受けずに行える。
答え: 正しいです。既に不特定多数の者が入手可能な公知の技術の提供は、第九号の特例の対象です。
問2 未公開の技術を、特定の取引先に渡す目的で自社サイトに形式的に掲載してから提供すれば、公知の技術の特例を適用できる。
答え: 誤りです。特定の者に提供することを目的として公知とする取引は、第九号から明文で除かれています。
問3 特定の新製品の設計に直結する研究開発であっても、大学で行う研究であれば基礎科学分野の研究活動の特例が適用される。
答え: 誤りです。基礎科学の線引きは実施主体でなく、特定の製品の設計または製造を目的とするかどうかで判断します。
分からなかった点・気になった点
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この章の問題を解く
章のまとめへ- X社の技術者が、A国のY社へ図面を1枚だけ電子メールで送った。図面には特定技術にあたる内容が含まれていた。この行為は役務取引の規制の対象になる。解く
- X社の技術者が、A国のY社へ送る資料は1枚だけだった。1枚であれば規制の対象にならない。解く
- 電話や口頭の説明でも、技術支援として規制の対象になる。解く
- 記録に残らない口頭の説明は、後から確かめられないため規制の対象外である。解く
- X社の技術者が、自分が現地で作業に使うためだけに、特定技術にあたる技術資料をA国へ持ち出した。誰にも渡す予定はない。この場合でも、前段規制にあたるかどうかの判断は必要である。解く