G検定(ジェネラリスト検定)
きこうへんどう
気候変動
Climate Change
気候変動は、AIとの関係では主に、大規模なモデルの学習や利用に使う計算資源が電力を消費し、炭素を排出するという環境負荷の問題として論じられます。AI事業者ガイドラインは、共通の指針の持続可能性の確保で、ライフサイクル全体を通じて地球環境への影響も検討するよう求めています。
詳しい説明
AIの計算コストと環境負荷
AIと気候変動の関係を考える手がかりとして、ここでは大規模な機械学習モデルの計算コストを扱った2つの研究を紹介します。どちらも英語の論文なので、原文を引用し、執筆者の参考訳を添えます。引用はAbstractからの抜粋で、抜粋と抜粋のあいだは省略しています。
Strubellらの研究(2019年)
Strubell、Ganesh、McCallumの論文 Energy and Policy Considerations for Deep Learning in NLP(ACL 2019)は、自然言語処理(NLP)の大規模モデルについて、学習に必要な計算資源と、それに伴う負担を論じています。
> Recent progress in hardware and methodology for training neural networks has ushered in a new generation of large networks trained on abundant data.
参考訳: ニューラルネットワークを学習させるハードウェアと手法の近年の進歩により、豊富なデータで学習した新しい世代の大規模なネットワークが生まれた。
> these accuracy improvements depend on the availability of exceptionally large computational resources that necessitate similarly substantial energy consumption.
参考訳: こうした精度の向上は、並外れて大きな計算資源を使えることが前提になっており、その計算資源は同じく相当なエネルギー消費を必要とする。
> As a result these models are costly to train and develop, both financially
> and environmentally, due to the carbon footprint required to fuel modern tensor processing hardware.
参考訳: その結果、これらのモデルは学習と開発に費用がかかる。財務的な負担だけでなく、現代のテンソル処理ハードウェアを動かすのに必要な炭素排出(カーボンフットプリント)のために、環境的な負担もかかる。
この研究のポイントは、精度を高めるために大きな計算資源を使うと、エネルギーを多く消費し、その結果として炭素を排出するという環境的な負担が生じる、というつながりを示したことです。モデルの性能だけでなく、その性能を得るために何を消費したかにも目を向ける視点です。
Pattersonらの研究(2021年)
Pattersonらの論文 Carbon Emissions and Large Neural Network Training(2021年、arXiv:2104.10350)は、大規模なニューラルネットワークの学習に伴う炭素排出を扱っています。
> The computation demand for machine learning (ML) has grown rapidly recently, which comes with a number of costs
参考訳: 機械学習(ML)の計算需要は近年急速に増えており、それにはさまざまなコストが伴う。
> Geographic location matters for ML workload scheduling since the fraction of carbon-free energy and resulting CO2e vary ~5X-10X, even within the same country and the same organization.
参考訳: MLの処理をどこで実行するかを決めるうえで、地理的な位置は重要である。同じ国の中でも、同じ組織の中でも、炭素を出さないエネルギーの割合と、その結果としてのCO2e(二酸化炭素換算の排出量)がおよそ5倍から10倍異なりうるからである。
この研究のポイントは、同じ計算をしても、それをどの場所で実行するかによって排出量が大きく変わりうると指摘したことです。場所によって、使われる電力のうち炭素を出さないエネルギーの割合が違うためです。したがって、計算の量を減らす工夫とは別に、計算をどこで動かすかを選ぶことも、排出を考えるうえでの論点になります。
AI事業者ガイドラインにおける位置づけ
総務省と経済産業省のAI事業者ガイドライン(第1.1版、令和7年3月28日)は、本編の共通の指針のうち、1)人間中心の項目の6番目に持続可能性の確保を置き、次のように書いています。
> AIシステム・サービスの開発・提供・利用において、ライフサイクル全体で、地球環境への影響も検討する(特に、生成AIなど計算量の多いAIシステムにおいては、モデルの軽量化や目的に応じたモデルの使い分け等の対策を講じる)
この一文から読み取れることは次の3点です。
- 対象は開発・提供・利用のすべてで、AIを作る側だけでなく、提供する側と使う側も含まれる
- 検討する範囲はライフサイクル全体で、学習の段階だけに限られていない
- 生成AIのように計算量の多いAIシステムについては、対策の例としてモデルの軽量化と、目的に応じたモデルの使い分けが挙げられている
なお、ガイドライン本文を検索して確かめた範囲では、環境負荷に触れているのはこの一文だけです。環境への影響について、独立した章や詳しい手順が設けられているわけではありません。また、この一文には排出量の数値目標や測り方は書かれていません。ガイドラインでの扱いは、持続可能性の確保という項目の中の一文として、地球環境への影響も検討するよう求めるものだと押さえておくのが正確です。
AIとの関わり
AI技術の発展、とくに大規模なモデルや生成AIの広がりは、計算資源の需要を増やし続けていると考えられています。計算資源を動かすには電力が要り、その電力のつくり方によっては炭素の排出につながります。上の2つの研究は、この計算と排出のつながりを示したものと読めます。
そのため、性能の向上と環境負荷をどう両立させるかが課題として意識されるようになっています。ガイドラインが挙げるモデルの軽量化や目的に応じたモデルの使い分けは計算の量を抑える方向の工夫であり、Pattersonらの研究が指摘する実行場所の選び方は、同じ計算でも排出を変えうる工夫です。どの対策がどれだけ効くかは状況によって異なり、ここで一つの答えを示すことはできません。
試験で問われること
G検定
- AI事業者ガイドラインの共通の指針では、人間中心の項目の中の持続可能性の確保として、開発・提供・利用のライフサイクル全体で地球環境への影響も検討することが求められている点を確認する。
- 同じ項目で、生成AIなど計算量の多いAIシステムへの対策の例として、モデルの軽量化と目的に応じたモデルの使い分けが挙げられている点を確認する。
- Strubellらの研究(2019年)が、大規模なNLPモデルの精度向上は大きな計算資源とエネルギー消費を必要とし、学習と開発には財務的な負担と炭素排出という環境的な負担の両方がかかると述べている点を確認する。
- Pattersonらの研究(2021年)が、同じ国や同じ組織の中でも、炭素を出さないエネルギーの割合と排出量はおよそ5倍から10倍異なりうるため、処理をどこで実行するかという地理的な位置が重要だと指摘している点を確認する。
最終更新日: 2026/09/23