確率の基礎:ばらつきのある世界を数で表す
人工知能がなぜ確率を使うのかを学びます。基礎層では、結果を数にする確率変数、値の出やすさを表す確率分布、平均的な見込みを表す期待値、条件がついたときの条件付き確率を身近な例でつかみます。深掘り層では、確率密度と、ベルヌーイ分布・二項分布・ポアソン分布・正規分布という代表的な分布までを必要な数式も言葉で読み下しながら説明できるようになります。
ねらい
このレッスンでは、確率(かくりつ)の基礎を学びます。人工知能は、はっきり決まりきらない世界を相手にします。だから、ものごとの起こりやすさを数で表す確率が土台になります。
前半の基礎層では、4つの基本をつかみます。結果を数に置きかえる確率変数、どの値が出やすいかを表す確率分布、平均的にどのくらいかを表す期待値、そして条件がついたときの条件付き確率です。前提となる数学の知識がなくても、ここは読み切れます。
後半の深掘り層では、代表的な確率分布に、必要な数式も言葉で読み下しながらふみこみます。こちらは、ある程度の知識のある人に向けた発展です。
基礎
結果を数にする確率変数と、値の出やすさの全体を表す確率分布、平均的な見込みである期待値、そして条件が分かっているときの条件付き確率を見ます。
1. 結果を数にする確率変数、値の出やすさを表す確率分布
サイコロを1回振ると、出る目は1から6のどれかです。振る前は、どれになるか決まっていません。このように、やってみるまで結果が定まらないものを数で表したものを確率変数(かくりつへんすう)といいます。サイコロの目は、1から6という数のどれかになる確率変数です。
確率変数には、それぞれの値の出やすさがあります。サイコロが正しく作られていれば、1から6までの目は、どれも同じ6分の1の割合で出ます。このように、確率変数がどの値をどれだけの割合で取るかをまとめて表したものを確率分布(かくりつぶんぷ)といいます。サイコロの確率分布は、1から6まで平らにならんだ形です。
天気の例なら、明日が「雨」か「晴れ」かが確率変数にあたります。雨が6割、晴れが4割という割合の全体が、確率分布にあたります。
ポイント
確率変数は「結果を数にしたもの」、確率分布は「その値がどれだけ出やすいかの全体」です。この2つは、確率の話を組み立てる土台になります。
2. 平均的にどのくらいかを表す期待値
くじ引きを考えます。当たると300円もらえて、はずれると0円です。当たる割合が10回に1回だとすると、1回引くと平均していくらもらえると見込めるでしょうか。
答えは30円です。300円を当たる割合である10分の1でならすと、1回あたり30円になります。このように、確率変数が平均的にどのくらいの値になるかを表した量を期待値(きたいち)といいます。期待値は「見込みの平均」と考えると分かりやすくなります。
期待値は、1回ごとの結果ではありません。同じことを何度もくり返したときに、1回あたりに落ち着いていく平均の値です。人工知能でも、平均してどれだけ当たるか、平均してどれだけ損をするかを見積もるときに、この考え方を使います。
3. 条件がつくと変わる、条件付き確率
確率は、分かっている情報によって変わります。ふつうにサイコロを振ると、6が出る割合は6分の1です。ところが、だれかが見て「出た目は偶数だった」と教えてくれたとします。すると、可能性は2と4と6の3つにしぼられ、6が出ていた割合は3分の1に上がります。
このように、ある条件が分かっているときの確率を条件付き確率(じょうけんつきかくりつ)といいます。「偶数だと分かったうえで、それが6である確率」が条件付き確率です。新しい情報が加わると、確率は変わります。
人工知能は、この考え方をよく使います。たとえば迷惑メールの判定では、「この言葉が入っているという条件のもとで、迷惑メールである確率」を見積もります。条件付き確率は、手がかりを使って判断をしぼりこむための考え方です。
ここまでの要点
- 確率変数は、やってみるまで決まらない結果を数にしたものです。
- 確率分布は、その値がどれだけ出やすいかを全体として表したものです。
- 期待値は、平均的にどのくらいの値になるかという見込みの平均です。
- 条件付き確率は、ある条件が分かっているときの確率です。
まずは全体像をつかめれば十分という人は、ここで区切って大丈夫です。「確率は起こりやすさを数にしたもので、条件が変わると確率も変わる」と押さえられていれば、この先の深掘りに進む土台はできています。
発展
ここからは、連続した値の確率をどう表すか、そして機械学習でよく出てくる代表的な確率分布をくわしく見ます。数式も少し使いますが、記号は必ず言葉で読み下します。
4. 連続した値と、確率密度
サイコロの目は、1から6という飛び飛びの値でした。ところが世の中には、連続した値もあります。人の身長は、170センチメートルちょうどとは限らず、170.3センチメートルにも170.31センチメートルにもなりえます。
連続した値では、「ちょうど170.00センチメートルである確率」を考えても、ほとんど0になってしまいます。ぴったりその値になることは、まずないからです。そこで、値そのものの確率ではなく、その値の近くにどれだけ集まりやすいかという密度で考えます。この密度を確率密度(かくりつみつど)といいます。
確率密度は、グラフの高さだと思ってください。高さが高いところほど、その近くの値が出やすくなります。ある範囲の確率は、その範囲でグラフが囲む面積にあたります。連続した確率変数は、この確率密度の形で確率分布を表します。
理解の確認
飛び飛びの値では、それぞれの値に確率を割りあてられます。連続した値では、ぴったりの値の確率がほとんど0になるため、値の近くの出やすさを表す確率密度で考えます。確率密度が高いところほど、その近くの値が出やすくなります。
5. いちばん単純な分布から順に:ベルヌーイ分布・二項分布・ポアソン分布
代表的な確率分布を単純なものから順に見ていきます。
いちばん単純なのは、結果が2つしかない場合です。コインを1回投げて、表か裏かのどちらかになる、といった場合です。このように、成功か失敗かの2通りだけを1回だけためす確率分布をベルヌーイ分布(ベルヌーイぶんぷ)といいます。英語では Bernoulli distribution(ベルヌーイディストリビューション)と表記します。表が出る割合が分かれば、この分布は決まります。
次に、その2通りのためしを何回もくり返し、成功した回数を数える場合です。コインを10回投げて、表が何回出るかを数える、といった場合です。このときの回数の確率分布を二項分布(にこうぶんぷ)といいます。英語では binomial distribution(バイノミアルディストリビューション)と表記します。ベルヌーイ分布を何回もくり返したものが二項分布だ、と考えると、2つのつながりが分かります。二項分布は、ベルヌーイ分布を上位から見た仲間です。
もう1つ、めったに起こらないことが、決まった時間や範囲の中で何回起こるかを数える場合があります。1時間にお店へ来る客の数や、一定の広さに落ちる雨粒の数などです。このような、まれな出来事の回数の確率分布をポアソン分布(ポアソンぶんぷ)といいます。英語では Poisson distribution(ポアソンディストリビューション)と表記します。
注意
二項分布は「何回中、何回成功したか」という回数の分布です。1回だけのベルヌーイ分布と取り違えないようにしましょう。二項分布は、ベルヌーイ分布のためしをくり返した先にあります。
理解の確認
ベルヌーイ分布は、成功か失敗かの2通りを1回ためす分布です。二項分布は、その2通りのためしをくり返し、成功した回数を数える分布です。ポアソン分布は、めったに起こらないことが決まった時間や範囲で何回起こるかを数える分布です。
6. つりがね型に広がる、正規分布
最後に、連続した値でもっともよく登場する分布を見ます。正規分布(せいきぶんぷ)です。英語では normal distribution(ノーマルディストリビューション)と表記します。
正規分布は、真ん中が高く、左右になだらかに下がっていく、つりがねのような形をしています。真ん中あたりの値がいちばん出やすく、真ん中から離れるほど出にくくなります。身長や測定の誤差など、自然界や社会の多くのデータが、この形に近い散らばり方をします。
正規分布は、2つの数だけで形が決まります。1つは中心の位置で、これは平均にあたります。もう1つは横への広がりぐあいで、これは次のレッスンで学ぶ標準偏差にあたります。中心がどこにあり、どれだけ横に広がるかが決まれば、つりがねの形が1つに定まります。
正規分布がよく使われるのは、多くのデータがこの形に近く、扱いやすい性質を持つからです。人工知能でも、データのばらつきや誤差を正規分布とみなして計算を進めることがよくあります。
理解の確認
正規分布は、真ん中が高く左右になだらかに下がる、つりがね型の分布です。中心の位置である平均と、横への広がりである標準偏差の2つで形が決まります。多くのデータがこの形に近いため、統計や機械学習でよく使われます。
期待値をもう少し正確に
深掘り層のしめくくりに、第2節で見た期待値を言葉の式で正確にとらえておきます。
期待値は、起こりうる値のそれぞれに、その値が出る確率をかけて、すべて足し合わせた量です。ここで「すべて足し合わせる」ことを総和(そうわ)といいます。総和とは、ならんだ数を1つ残らず合計することです。
さきほどのくじの例で確かめます。当たりは300円で、その確率は10分の1です。はずれは0円で、その確率は10分の9です。300円かける10分の1が30円、0円かける10分の9が0円です。この2つを総和すると30円になり、これが期待値でした。値と確率をかけて総和する、という手順が期待値の中身です。式で書くと、期待値 = Σ( 値 × その値が出る確率 )となります。ここで Σ はギリシャ文字のシグマで、総和を表す記号です。「ならんだものを1つ残らず足し合わせる」と読みます。
理解の確認
期待値は、起こりうる値のそれぞれに、その値が出る確率をかけて、すべて足し合わせた量です。すべてを足し合わせることを総和といいます。値と確率をかけて総和すると、平均的な見込みである期待値が求まります。
理解度の確認
説明できる項目にチェックを入れましょう。すべて確認できたら、完了ボタンで記録します。
なお、ある条件から逆向きに原因の確率を求めなおすベイズの定理という考え方は、この確率の基礎を発展させたものです。統計を使った推定を学ぶレッスンで、その一歩手前まで触れます。
分からなかった点・気になった点
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