所得税の仕組み
所得税の納税義務者と非課税所得、10種類の所得から税額に至る計算の流れ、総合課税と分離課税の区別、超過累進税率の仕組みを判断できるようになります。
ねらい
タックスプランニングの土台となる所得税の全体の仕組みを学びます。このレッスンを終えると、誰にどの範囲で課税されるのかが分かり、収入から税額に至る計算の流れを地図として描けるようになり、総合課税と分離課税の区別と超過累進税率の考え方を判断できるようになります。
ストーリー
会社員の菊地さんは、源泉徴収票を見て考え込みました。「支払金額と、給与所得控除後の金額と、所得控除の額の合計額。似た言葉が並んでいるが、どの数字からどう税金が計算されているのか」。所得税の計算は、いくつもの段階を踏む長い一本道です。まず道の全体を見渡すことが、この章のすべてのレッスンの土台になります。
納税義務者と課税の範囲
所得税は、個人が1月1日から12月31日までの暦年に得た所得に課される国税です。納税義務者は、国内に住所があるなどの「居住者」と、それ以外の「非居住者」に分かれ、居住者は原則としてすべての所得に、非居住者は国内で生じた所得に課税されます。
すべての収入が課税されるわけではありません。次のような所得は非課税とされています。
- 障害年金・遺族年金などの公的年金の障害・遺族給付
- 通勤手当のうち一定額までの部分
- 身体の傷害に基因して受け取る保険金・給付金、心身に加えられた損害に対する損害賠償金や慰謝料
- 宝くじの当せん金
通勤手当のうち非課税となるのは、最も経済的かつ合理的な経路・方法で通勤した場合の1か月あたりの合理的な運賃等の額で、上限は月15万円です。この額を超える部分は給与として課税されます。
所得税の計算の流れ
所得税は、次の順序で計算します。この流れが章全体の地図になります。
- 各種所得の金額の計算: 1年間の収入を10種類の所得に分類し、それぞれの計算式で所得の金額を求めます(各種所得の内容のレッスンで扱います)。
- 課税標準の計算: 総合課税の所得を合算して総所得金額を求めます。この段階で、損失がある場合の損益通算と、前年から繰り越した損失の繰越控除を行います(損益通算のレッスンで扱います)。
- 所得控除: 総所得金額などから、家族の状況や支出に応じた所得控除を差し引き、課税総所得金額を求めます(所得控除のレッスンで扱います)。
- 税額の計算: 課税総所得金額に超過累進税率を適用して所得税額を求めます。
- 税額控除: 算出した税額から、住宅ローン控除などの税額控除を直接差し引きます(税額控除のレッスンで扱います)。
- 申告と納付: 源泉徴収された税額などを精算し、確定申告により納付または還付を受けます(申告と納付のレッスンで扱います)。
総合課税と分離課税
10種類の所得は、課税のされ方で2つに分かれます。
- 総合課税: 各種の所得を合算して、その合計に累進税率を適用する方式です。給与所得・事業所得・不動産所得などが対象で、所得税の原則です。
- 分離課税: 他の所得と分離して、その所得だけに独自の税率を適用する方式です。退職所得や山林所得、土地建物・株式等の譲渡所得などが対象です。分離課税には、確定申告で精算する申告分離課税と、源泉徴収だけで課税が完結する源泉分離課税(預貯金の利子など)があります。
退職所得が分離課税とされているのは、長年の勤務の対価が一度に支払われるため、総合課税で累進税率を適用すると税負担が過大になるからです。このように、分離課税には所得の性質に応じて負担を調整する役割があります。
| 区分 | 他の所得との合算 | 税率の適用 | 主な対象所得 |
|---|---|---|---|
| 総合課税 | 合算する | 合計に超過累進税率 | 給与所得・事業所得・不動産所得 |
| 分離課税 | 合算しない | その所得だけに独自の税率 | 退職所得・山林所得・土地建物や株式等の譲渡所得 |
注意
分離課税には、確定申告で税額を精算する申告分離課税と、源泉徴収だけで課税が完結し確定申告が不要な源泉分離課税(預貯金の利子など)があります。どちらも「分離課税」ですが、申告が必要かどうかが異なる点に気をつけましょう。
超過累進税率
所得税の税率は、課税される所得金額が大きくなるほど高い税率が適用される累進税率です。ただし、所得全体に高い税率を掛けるのではなく、所得を段階に区切り、各段階を超えた部分にだけ、その段階の税率を適用します。この方式を超過累進税率といいます。税率は5%から45%までの7段階です。
実際の計算では、段階ごとに分けて計算する代わりに、速算表を使います。
| 課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 195万円未満 | 5% | 0円 |
| 195万円以上330万円未満 | 10% | 9万7,500円 |
| 330万円以上695万円未満 | 20% | 42万7,500円 |
| 695万円以上900万円未満 | 23% | 63万6,000円 |
| 900万円以上1,800万円未満 | 33% | 153万6,000円 |
| 1,800万円以上4,000万円未満 | 40% | 279万6,000円 |
| 4,000万円以上 | 45% | 479万6,000円 |
たとえば課税される所得金額が700万円の場合、税額は700万円×23%−63万6,000円で97万4,000円です。この23%は700万円全体に掛かっているように見えますが、控除額63万6,000円を差し引くことで、低い段階の部分に低い税率を適用したのと同じ結果になっています。
ポイント
超過累進税率では、所得が段階の境目を少し超えても、超えた部分にだけ高い税率が掛かります。「330万円を超えたら全体が20%になって手取りが減る」という理解は誤りです。
なお、平成25年から令和19年までの各年分は、所得税額(基準所得税額)の2.1%の復興特別所得税が上乗せされます。
例題
次の記述が適切か、不適切かを考えてみましょう。
退職所得は、他の所得と合算せず、他の所得と分離して所得税が課税される。
答え合わせ
適切です。退職所得は分離課税の対象で、他の所得と合算せずに、退職所得だけで税額を計算します。長年の勤務の対価である退職金を総合課税にすると、一時に大きな所得が生じて累進税率の高い段階が適用されてしまうため、負担を和らげる趣旨で分離課税とされています。同じ趣旨の分離課税に山林所得があります。総合課税が原則で、分離課税は所得の性質に応じた例外、という骨組みで整理しましょう。
応用
もう一問、速算表を使って税額を計算してみましょう。
課税される所得金額(課税総所得金額)が700万円である場合の所得税額(復興特別所得税を考慮しない)はいくらか。速算表では、695万円以上900万円未満の税率は23%、控除額は63万6,000円である。
答え合わせ
97万4,000円です。速算表に当てはめて、700万円×23%−63万6,000円で97万4,000円になります。控除額を差し引き忘れて700万円×23%=161万円とするのが典型的な誤りです。速算表の控除額は、700万円のうち低い段階の部分(195万円までは5%、330万円までは10%など)に低い税率を適用した効果をまとめて反映するためのもので、必ず差し引きます。実際の納税額には、この基準所得税額に2.1%の復興特別所得税が上乗せされることも覚えておきましょう。
分からなかった点・気になった点
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この章の問題を解く
章のまとめへ- 法人税の損金に算入される税金の選択解く
- 赤字法人の均等割の納付義務の判定解く
- 損金の額に算入される役員給与の選択解く
- 中小法人の年800万円以下の部分の税率の選択解く
- 届出をしなかった場合の法定償却方法の選択解く