社会保険
公的医療保険・介護保険・労災保険・雇用保険の仕組みと給付を理解し、傷病手当金の計算や任意継続の要件など、実務的な論点まで判断できるようになります。
ねらい
病気・けが・失業・介護といった暮らしのリスクを支える社会保険の全体像と、各制度の給付の仕組みを学びます。このレッスンを終えると、公的医療保険・介護保険・労災保険・雇用保険のそれぞれについて、誰が対象で、どんなときに、どのような給付を受けられるかを判断できるようになります。
ストーリー
会社員の中村さんは、通勤中の転倒でけがをして1か月休職しました。回復して復職した矢先、今度は会社の業績悪化で退職を考え始めています。「休んでいた間の収入はどうなっていたのか」「退職したら健康保険はどうなるのか」「失業したら給付は受けられるのか」。中村さんの疑問はすべて、社会保険の制度が答えを持っています。
社会保険制度の全体像
社会保険は、暮らしの主なリスクに対応する5つの制度で構成されます。病気・けがに備える医療保険、加齢による介護に備える介護保険、老齢・障害・死亡に備える年金保険、仕事上の災害に備える労災保険、失業に備える雇用保険です。労災保険と雇用保険の2つを合わせて「労働保険」と呼びます。
このうち年金保険は、次の公的年金のレッスンで扱います。ここでは残りの4つの制度を順に見ていきます。
公的医療保険
公的医療保険は、対象者で3つに分かれます。会社員とその家族は「健康保険」、自営業者などは「国民健康保険」、75歳以上の人は「後期高齢者医療制度」の対象です。
健康保険の仕組み
健康保険の保険者には、主に中小企業の従業員が加入する全国健康保険協会(協会けんぽ)と、主に大企業の従業員が加入する健康保険組合があります。保険料は、標準報酬月額(ひょうじゅんほうしゅうげつがく。給与を区切りのよい幅で区分した金額)と標準賞与額に保険料率を掛けて計算し、原則として労使折半で負担します。
被保険者に扶養される家族は「被扶養者(ひふようしゃ)」として、保険料の負担なしに給付を受けられます。被扶養者と認められる収入要件は、年間収入が130万円未満(60歳以上の人や一定の障害のある人は180万円未満)で、かつ、同一世帯なら被保険者の年間収入の2分の1未満であることです。なお、令和8年4月からは、19歳以上23歳未満の人(配偶者を除く)について、この130万円の基準が150万円未満に引き上げられます。
医療機関の窓口で支払う自己負担の割合は、原則として小学校入学後から69歳までが3割、未就学児が2割、70歳から74歳までが2割です。70歳以上でも、現役並みの所得がある人は3割です。
健康保険の主な給付には、次のものがあります。
| 給付 | 内容 |
|---|---|
| 療養の給付 | 病気・けがの診療を自己負担割合の支払いだけで受けられる |
| 高額療養費 | 同じ月の自己負担額が自己負担限度額を超えたとき、超えた分が払い戻される |
| 傷病手当金 | 業務外の病気・けがで働けず給与が出ないとき、休業中の生活を保障する |
| 出産手当金 | 出産のために休み給与が出ないとき、産前産後の生活を保障する |
| 出産育児一時金 | 出産したとき、1児につき50万円が支給される |
傷病手当金(しょうびょうてあてきん)は、2級では支給額の計算まで問われます。連続する3日間の待期(たいき。支給前の待ち期間)が完成した後、4日目以降の休んだ日について支給されます。1日あたりの支給額は、支給開始日以前12か月間の標準報酬月額の平均を30で割った額の3分の2です。支給される期間は、支給開始日から通算して1年6か月です。途中で復職した期間があっても、支給された期間だけを通算します。
計算例で確かめましょう。支給開始日以前12か月の標準報酬月額の平均が30万円の人の場合、1日あたりの支給額は、300,000円÷30=10,000円を求め、その3分の2で6,667円(1円未満四捨五入)になります。
ポイント
傷病手当金は「連続3日の待期の後、4日目から」「1日あたり、支給開始日以前12か月の標準報酬月額の平均を30で割った額の3分の2」「支給開始から通算1年6か月」の3点で覚えます。出産手当金も1日あたりの額は同じ計算です。
退職後の医療保険
会社を退職すると健康保険の資格を失います。退職後の選択肢は、主に3つあります。国民健康保険に加入する、家族の健康保険の被扶養者になる、そして「任意継続被保険者(にんいけいぞくひほけんしゃ)」になる、の3つです。
任意継続被保険者になるには、資格喪失日の前日まで継続して2か月以上の被保険者期間があり、資格喪失日から20日以内に申し出ることが必要です。任意継続できる期間は最長2年間で、保険料は在職中と違い全額自己負担になります。
国民健康保険と後期高齢者医療制度
国民健康保険は、都道府県と市区町村が保険者となる制度で、自営業者や退職者などが加入します。健康保険と違い、被扶養者という仕組みがなく、加入者全員が被保険者になります。給付内容は健康保険とおおむね同じですが、業務外という限定がなく、傷病手当金と出産手当金は法律上の義務ではない任意給付です。
後期高齢者医療制度は、75歳以上の人(一定の障害がある場合は65歳以上)が対象で、都道府県ごとの後期高齢者医療広域連合が運営します。窓口の自己負担は原則1割で、一定以上の所得がある人は2割、現役並みの所得がある人は3割です。
公的介護保険
公的介護保険の保険者は市区町村(特別区を含む)です。被保険者は年齢で2つに分かれます。65歳以上の人が第1号被保険者、40歳以上65歳未満の公的医療保険加入者が第2号被保険者です。
| 項目 | 第1号被保険者 | 第2号被保険者 |
|---|---|---|
| 年齢 | 65歳以上 | 40歳以上65歳未満(公的医療保険加入者) |
| 給付の対象 | 原因を問わず要介護・要支援状態 | 加齢に伴う特定疾病が原因の場合に限る |
| 自己負担 | 原則1割(一定所得で2割・3割) | 所得にかかわらず1割 |
給付を受けるには、市区町村から要介護・要支援の認定を受ける必要があります。認定の区分は、軽い順に要支援1と2、要介護1から5までの7段階です。
注意
第1号被保険者は、原因を問わず要介護・要支援状態になれば給付の対象です。一方、第2号被保険者は、末期がんや関節リウマチなど加齢に伴う特定疾病(とくていしっぺい)が原因の場合に限って給付を受けられます。交通事故が原因の要介護状態では、第2号被保険者は介護保険の給付を受けられません。
サービスを利用したときの自己負担は原則1割です。第1号被保険者のうち一定以上の所得がある人は2割または3割になりますが、第2号被保険者は所得にかかわらず1割です。
労働者災害補償保険
労働者災害補償保険(労災保険)は、業務上の災害と通勤途中の災害による病気・けが・障害・死亡に対して給付を行う制度です。対象は、パート・アルバイトを含むすべての労働者です。保険料は全額を事業主が負担し、労働者の負担はありません。
主な給付には、無料で治療を受けられる療養(補償)等給付、休業4日目から給付基礎日額の100分の60が支給される休業(補償)等給付、障害・遺族・介護の各給付などがあります。休業(補償)等給付には、社会復帰促進等事業から給付基礎日額の100分の20の特別支給金が上乗せされるため、合わせて100分の80の水準になります。この上乗せの仕組みを「特別支給金制度」といいます。
労災保険は労働者のための制度なので、事業主や自営業者は本来対象外です。ただし、中小事業主や、個人タクシーや大工などの一人親方(ひとりおやかた)は、申請により「特別加入制度」で任意に加入できます。
雇用保険
雇用保険は、失業したときの生活の安定と再就職の支援を目的とする制度で、保険料は事業主と労働者の双方が負担します。失業等給付のほか、事業主向けの雇用安定事業と能力開発事業(雇用保険二事業)も行っています。
基本手当
失業時の中心となる給付が、求職者給付の基本手当です。受給するには、原則として離職の日以前2年間に被保険者期間が通算12か月以上あることが必要です。倒産・解雇などによる離職(特定受給資格者)の場合は、離職の日以前1年間に通算6か月以上に緩和されます。
給付は、ハローワークで求職の申込みをした後、7日間の待期を経て始まります。自己都合で退職した場合は、待期の後にさらに給付制限期間が置かれます。給付制限期間は、令和7年4月1日以降に離職した人は原則1か月です(それより前の離職は原則2か月でした)。ただし、離職の日からさかのぼって5年間に、正当な理由のない自己都合離職で受給資格の決定を2回以上受けている場合は、3か月になります。
雇用継続と休業の給付
働き続けることを支える給付として、次のものがあります。
- 高年齢雇用継続給付: 60歳以降も働き続け、賃金が60歳時点より大きく低下した場合に支給されます。
- 育児休業給付: 育児休業中の生活を保障する給付です。休業開始時の賃金に一定の給付率を掛けた額が支給され、給付率は休業の当初のほうが高く設定されています。
- 介護休業給付: 家族の介護のために休業した場合の給付で、同じ家族について通算93日を限度に3回まで分割して受けられます。
給付率は次のとおりです。高年齢雇用継続給付は、令和7年4月1日以降に60歳になる人から、支給対象月に支払われた賃金の最大10%です(それ以前に60歳になった人は最大15%)。育児休業給付は、休業開始から180日目までが休業開始時賃金の67%、181日目以降が50%です。加えて、令和7年4月に創設された出生後休業支援給付金は、子の出生後に両親がともに一定期間の育児休業を取得した場合、最大28日間、休業開始時賃金の13%が育児休業給付に上乗せされ、あわせて手取りの実質10割相当(給付率80%)になります。
育児・介護休業そのものの取得ルール(対象者・期間・分割取得)は、育児・介護休業法が定めています。育児休業は原則として子が1歳になるまで(保育所に入れないなどの事情があれば最長2歳まで延長可能)で、2回まで分割して取得できます。
例題
次の記述が適切か、不適切かを考えてみましょう。
会社員のAさん(45歳)は、休日の交通事故が原因で要介護状態となったため、公的介護保険の給付を申請した。Aさんは第2号被保険者であるが、要介護状態になった以上、給付を受けられる。
答え合わせ
不適切です。公的介護保険の第2号被保険者は、40歳以上65歳未満の公的医療保険加入者で、給付を受けられるのは、加齢に伴う特定疾病が原因で要介護・要支援状態になった場合に限られます。交通事故は特定疾病ではないため、45歳のAさんは介護保険の給付を受けられません。原因を問わず給付の対象になるのは、65歳以上の第1号被保険者です。
応用
もう一問、退職後の医療保険を考えてみましょう。
会社員のBさんは、8年間勤めた会社を退職することになった。退職後も在職中と同じ健康保険に任意継続被保険者として加入したい場合、資格喪失日から2か月以内に申し出ればよい。
答え合わせ
不適切です。任意継続被保険者になるための申出の期限は、資格喪失日から20日以内です。2か月という数字は、申出の期限ではなく、資格喪失日の前日まで継続して2か月以上の被保険者期間が必要という加入要件のほうに登場します。Bさんは8年間勤めているのでこの要件は満たしており、20日以内に申し出れば最長2年間、任意継続被保険者になれます。なお、保険料は在職中の労使折半と違い、全額自己負担になる点も合わせて押さえておきましょう。
分からなかった点・気になった点
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