公的年金
国民年金と厚生年金の仕組み、老齢・障害・遺族の各給付の要件を理解し、繰上げ・繰下げの増減率の計算や離婚時年金分割まで判断できるようになります。
ねらい
公的年金制度の全体像と、老齢・障害・遺族という3つの給付の仕組みを学びます。このレッスンを終えると、被保険者の種別と保険料の仕組みが整理でき、繰上げ受給・繰下げ受給の増減率の計算や、離婚時年金分割などの2級で問われる論点を判断できるようになります。
ストーリー
自営業の川口さん(38歳)は、会社員の妻と2人暮らしです。「会社員の妻と自営業の自分では、入っている年金が違うと聞いた。老後にいくら受け取れるのか、もし自分に何かあったら家族はどうなるのか」。公的年金は老後だけの制度ではありません。障害を負ったとき、亡くなったときにも家族を支える、3つの顔を持つ制度です。
公的年金制度の全体像
日本の公的年金は2階建ての構造です。1階部分は、日本国内に住む20歳以上60歳未満のすべての人が加入する国民年金(基礎年金)です。2階部分は、会社員・公務員が加入する厚生年金保険で、国民年金に上乗せされます。
被保険者の種別
国民年金の被保険者は、働き方で3つの種別に分かれます。
| 種別 | 対象 | 保険料 |
|---|---|---|
| 第1号被保険者 | 20歳以上60歳未満の自営業者・学生・無職の人など | 定額の国民年金保険料を自分で納める |
| 第2号被保険者 | 会社員・公務員(厚生年金の加入者) | 厚生年金保険料に含まれる(労使折半) |
| 第3号被保険者 | 第2号被保険者に扶養される20歳以上60歳未満の配偶者 | 自己負担なし |
第1号被保険者が自分で納める国民年金保険料は、令和8年度(2026年4月から)は月額17,920円です。保険料は名目賃金の変動に応じて毎年度改定されます。
保険料の免除と猶予
第1号被保険者が保険料を納められないときの仕組みとして、法定免除(障害基礎年金の受給者や生活保護の生活扶助を受ける人が対象)、申請免除(全額・4分の3・半額・4分の1の4段階)、50歳未満向けの納付猶予、学生納付特例があります。産前産後期間の保険料は届出により免除され、この期間は保険料を納めた期間として扱われます。
免除・猶予を受けた期間の保険料は、10年以内であればさかのぼって納める(追納する)ことができます。追納しない場合、免除期間は受給資格期間には算入されますが、年金額には一部しか反映されません。猶予・特例の期間は、受給資格期間に入るものの年金額には反映されません。
老齢給付
老齢基礎年金
老齢基礎年金は、受給資格期間(保険料納付済期間・免除期間・合算対象期間の合計)が10年以上ある人が、原則65歳から受け取れます。年金額は、40年(480月)すべて保険料を納めた場合に満額となり、納付月数が少なければその分減ります。
満額は、令和8年度(2026年4月から)で年額847,296円(月額70,608円)です。納付月数が480月に満たない場合は、満額×納付月数÷480で計算します。たとえば納付月数が360月(30年)なら、847,296円×360÷480で635,472円になります。
第1号被保険者は、月額400円の付加保険料を上乗せして納めると、老齢基礎年金に「200円×付加保険料納付月数」の付加年金が加算されます。2年間受け取れば納めた付加保険料の元が取れる計算になります。なお、付加保険料は国民年金基金と同時には利用できません。
繰上げ受給と繰下げ受給
老齢基礎年金・老齢厚生年金は、原則の65歳より早く、または遅く受け取り始めることができます。
| 項目 | 繰上げ受給 | 繰下げ受給 |
|---|---|---|
| 受給開始 | 60歳から65歳になるまで | 66歳から75歳になるまで |
| 増減率(1か月あたり) | 0.4%の減額 | 0.7%の増額 |
| 最大 | 24%減額(60歳到達月に開始) | 84%増額(75歳到達月に開始) |
| 老齢基礎年金と老齢厚生年金 | 同時に行う必要がある | 別々に行える |
減額率・増額率はいずれも生涯変わりません。繰上げは老齢基礎年金と老齢厚生年金を同時に行う必要がある一方、繰下げは別々に行える点が2級で問われます。
計算例で確かめましょう。65歳から受け取れる老齢基礎年金を68歳0か月まで36か月繰り下げると、増額率は0.7%×36か月で25.2%です。反対に、62歳0か月へ36か月繰り上げると、減額率は0.4%×36か月で14.4%になります。
ポイント
繰上げは月0.4%の減額で同時に、繰下げは月0.7%の増額で別々に。この対比が2級の定番論点です。付加年金は、繰上げ・繰下げに連動して同じ率で増減します。
老齢厚生年金
老齢厚生年金は、老齢基礎年金の受給資格期間を満たし、厚生年金の加入期間が1か月以上ある人が65歳から受け取れます。年金額は、現役時代の報酬と加入期間に応じた報酬比例の額です。
厚生年金の加入期間が20年以上ある人が65歳になった時点で、生計を維持している65歳未満の配偶者または一定の子がいる場合、老齢厚生年金に「加給年金(かきゅうねんきん)」が加算されます。配偶者の加給年金額は令和8年度で年額243,800円で、受給権者の生年月日に応じた特別加算(最大179,900円)を含めると、昭和18年4月2日以後生まれの人で年額423,700円になります。子の加給年金額は1人目・2人目が各243,800円、3人目以降が各81,300円です。配偶者が65歳になると加給年金は打ち切られ、代わりに配偶者自身の老齢基礎年金に振替加算が付く場合があります。
なお、65歳より前に受け取れる特別支給の老齢厚生年金は、生年月日により支給開始年齢が段階的に引き上げられ、男性は1961年4月2日以降、女性は1966年4月2日以降に生まれた人には支給されません。また、働きながら受け取る場合は、賃金と年金の合計が基準額を超えると年金の一部または全部が支給停止される在職老齢年金の仕組みがあります。
在職老齢年金の支給停止調整額(基準額)は、令和8年度は65万円です。賃金(賞与込みの月収)と老齢厚生年金の月額の合計がこの額を超えると、超えた分の2分の1にあたる年金額が支給停止されます。この基準額は令和7年の年金制度改正で引き上げられました。
障害給付
障害基礎年金は、初診日に国民年金の被保険者であるなどの要件と、保険料納付要件(初診日の前々月までの被保険者期間のうち3分の2以上が納付済・免除期間であること。または直近1年間に未納がないこと)を満たし、障害認定日に障害等級1級・2級に該当すると支給されます。1級の年金額は2級の1.25倍で、18歳到達年度末までの子などがいる場合は子の加算が付きます。
障害厚生年金は、初診日に厚生年金の被保険者であった場合に支給され、等級は1級から3級まであります。3級より軽い一定の障害には一時金の障害手当金があります。1級・2級には、生計維持関係にある65歳未満の配偶者の加給年金額が加算されます。
遺族給付
遺族基礎年金を受け取れる遺族は、死亡した人に生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」に限られます。ここでいう子は、18歳到達年度末までの子(障害等級1級・2級の場合は20歳未満)です。子のない配偶者は受け取れません。
遺族厚生年金は、厚生年金の被保険者などが亡くなったときに、生計を維持されていた遺族に支給されます。年金額は、死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3です。被保険者期間が300月未満の場合は300月とみなして計算します。夫を亡くした40歳以上65歳未満の妻で、遺族基礎年金を受け取れない場合などには、中高齢寡婦加算(ちゅうこうれいかふかさん)が上乗せされます。
注意
遺族基礎年金は「子のある配偶者」か「子」だけが対象で、子のない配偶者は受け取れません。一方、遺族厚生年金は子のない配偶者も対象になります。どちらの年金の話かを確かめてから、遺族の範囲を判断しましょう。
併給調整と離婚時年金分割
公的年金は1人1年金が原則で、支給事由の異なる年金は原則としてどちらかを選択します。ただし65歳以降は例外があり、老齢基礎年金と遺族厚生年金のように、基礎年金と支給事由の異なる厚生年金は併給できます。65歳以降に自分の老齢厚生年金と遺族厚生年金の両方の権利がある場合は、自分の老齢厚生年金が優先して支給され、遺族厚生年金はその差額分だけ支給されます。
離婚したときは、婚姻期間中の厚生年金の記録を分割できます。分割には2つの方法があります。
- 合意分割: 当事者の合意または裁判所の決定により、婚姻期間中の厚生年金記録を分割します。分割割合の上限は2分の1です。
- 3号分割: 2008年4月以降の第3号被保険者期間について、相手の合意なしに2分の1の割合で分割できます。
いずれも、請求期限は原則として離婚した日の翌日から2年以内です。分割されるのは厚生年金の記録であり、老齢基礎年金は分割されません。
請求手続と年金生活者支援給付金
年金は、受給権が発生しても自動では支払われず、本人が年金請求(裁定請求)の手続きを行う必要があります。また、老齢基礎年金の受給者で所得が一定以下の人などには、年金に上乗せして年金生活者支援給付金が支給されます。
老齢年金生活者支援給付金の給付基準額は、令和8年度は月額5,620円です(実際の額は保険料納付済期間などに応じて算出されます)。障害年金生活者支援給付金は1級が月額7,025円・2級が月額5,620円、遺族年金生活者支援給付金は月額5,620円です。
例題
次の空欄にあてはまる数値を計算してみましょう。
65歳から老齢基礎年金を受け取れるAさんが、受給開始を70歳0か月まで繰り下げた場合、年金額の増額率は( )%である。
答え合わせ
42%です。繰下げ受給の増額率は1か月あたり0.7%でした。65歳0か月から70歳0か月までの繰下げ期間は60か月なので、0.7%×60か月で42%になります。この増額率は生涯変わりません。なお、繰上げ受給の場合の減額率は1か月あたり0.4%で、率が違う点を混同しないようにしましょう。
応用
もう一問、遺族給付の対象を考えてみましょう。
厚生年金の被保険者であった夫が死亡した。夫に生計を維持されていた妻(45歳)には子がいない。この妻は、遺族基礎年金と遺族厚生年金のどちらを受け取れるか。
答え合わせ
遺族厚生年金だけを受け取れます。遺族基礎年金の対象は「子のある配偶者」または「子」に限られるため、子のいない妻は受け取れません。一方、遺族厚生年金は子のない配偶者も対象で、年金額は夫の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3です。さらにこの妻は40歳以上65歳未満で遺族基礎年金を受け取れないため、遺族厚生年金に中高齢寡婦加算が上乗せされます。遺族の範囲が2つの年金で異なることが、この論点の判断の軸になります。
分からなかった点・気になった点
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