事業承継対策
自社株評価の引下げ・移転・納税資金という事業承継対策の3本柱と、遺留分に関する民法の特例、非上場株式等の納税猶予制度の骨格を判断できるようになります。
ねらい
中小企業のオーナー経営者に固有の、自社株の承継対策を学びます。2級で新たに加わる項目です。このレッスンを終えると、事業承継対策を自社株評価の引下げ・計画的な移転・納税資金の準備の3本柱で整理でき、遺留分に関する民法の特例と、非上場株式等の納税猶予制度(事業承継税制)の骨格を判断できるようになります。
ストーリー
町工場を40年経営してきた岩本社長(72歳)は、長男への承継を考え始めました。会社は堅実に利益を積み上げ、自社株の相続税評価額は思いのほか高くなっています。「株を長男に渡すだけで、多額の税金がかかるのか。他の子どもたちの取り分はどうする」。事業承継は、相続税・遺産分割・経営権の3つの問題が同時に絡む、相続分野の集大成です。
事業承継の問題点と対策の3本柱
オーナー経営者の相続では、財産の大半が換金しにくい自社株に偏りがちです。評価が高いほど相続税は重く、株が分散すれば経営権が揺らぎ、後継者以外の相続人との公平も課題になります。対策は3本柱で整理します。
- 自社株の評価引下げ: 評価を下げてから移転する。
- 計画的な移転: 贈与や譲渡で後継者に集中して渡す。
- 納税資金の準備: 相続税・贈与税を納める資金を用意する。
自社株評価の引下げ
財産評価のレッスンで学んだ評価方式の仕組みが、そのまま対策の急所になります。
- 類似業種比準方式は、配当・利益・純資産の3要素で評価が決まります。役員退職金の支給などによる利益の引下げ、配当の引下げ(記念配当など臨時のものは比準要素から除かれます)が評価を下げる典型例です。
- 純資産価額方式では、役員退職金の支給による純資産の圧縮や、時価と相続税評価額の差がある不動産の取得・有効活用が評価を下げる方向に働きます。
- このほか、従業員持株会へ配当還元価額で株式を譲渡して同族の持株を減らす方法や、中小企業投資育成会社の活用があります。いずれも、経営権の維持(議決権の確保)と両立させることが前提です。
計画的な移転と遺産分割への備え
後継者への移転には、暦年贈与・相続時精算課税・譲渡を組み合わせます。ただし、自社株を後継者に集中させると、他の相続人の遺留分を侵害するおそれが生まれます。これに備えるのが、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)の遺留分に関する民法の特例です。
ポイント
遺留分に関する民法の特例では、推定相続人全員の合意により、後継者に贈与した自社株式について、除外合意(遺留分を算定するための財産の価額から除外する合意)、または固定合意(算定に算入する価額をその時点の評価額に固定する合意)ができます。経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可が必要です。除外合意なら自社株の値上がりも遺留分の争いから切り離せます。
納税資金の準備
自社株は換金しにくいため、納税資金は別に用意します。役員退職金(会社から後継者や遺族への支給・死亡退職金の非課税枠500万円×法定相続人の数も使えます)と、会社を契約者とする生命保険(死亡退職金や自社株買取りの原資)が中心的な手段です。会社が相続人から自社株式を買い取る(金庫株)ことで、相続人に納税資金を渡す方法もあります。
計算例で確かめましょう。法定相続人が3人いる後継者一族に、会社から死亡退職金が支払われた場合、死亡退職金の非課税枠は500万円×法定相続人の数で計算するので、500万円×3人=1,500万円までが相続税の課税対象から外れます。この非課税枠のぶんだけ、遺族が受け取る資金を手元に残しやすくなります。
非上場株式等の納税猶予制度(事業承継税制)
後継者が非上場株式等を贈与・相続により取得した場合に、その株式に対応する贈与税・相続税の納税が猶予され、後継者が次の承継まで事業を続けるなど一定の要件を満たすと猶予税額が免除される制度です。都道府県知事の認定を受け、雇用の維持などの要件のもとで適用されます。
一般措置と、時限的に拡充された特例措置があります。
| 項目 | 一般措置 | 特例措置 |
|---|---|---|
| 対象株式 | 総株式数の==3分の2==まで | 全株式 |
| 相続税の納税猶予割合 | 80% | 100% |
| 主な前提 | 恒久措置 | 特例承継計画の提出と期限内の承継が必要 |
特例措置は、平成30年1月1日から令和9年12月31日までの間の贈与・相続を対象とする時限措置です。適用には特例承継計画を都道府県知事に提出する必要があり、その提出期限は当初の令和8年3月31日から令和9年9月30日まで延長されています(令和8年度税制改正)。適用対象となる贈与・相続の期限(令和9年12月31日)は延長されていません。
猶予はあくまで納税の先送りであり、要件を満たさなくなると利子税とともに納付が必要になる点、後継ぎの代でも承継を続けることで免除に至る設計である点が、制度の骨格です。
注意
「納税猶予」と「免除」を同じものと考えないようにしましょう。認定を受けた時点では税額はいったん猶予されるだけで、消えたわけではありません。事業や雇用の継続といった要件を満たせなくなれば、猶予されていた税額を利子税とともに納めることになります。免除は、次の後継者への承継など一定の要件を満たしてはじめて確定します。
例題
次の空欄にあてはまる語句を選んでみましょう。
経営承継円滑化法の遺留分に関する民法の特例において、後継者に贈与された自社株式を遺留分を算定するための財産の価額から除外することができる合意を( )という。
答え合わせ
除外合意です。推定相続人全員の合意と、経済産業大臣の確認・家庭裁判所の許可を経ることで、後継者に贈与した自社株式を遺留分の算定から除外できます。これに対して固定合意は、自社株式を算定に含めるものの、その価額を合意時の評価額に固定する合意で、贈与後の株式の値上がり分が遺留分を膨らませることを防ぎます。除外合意は株式そのものを争いの外に置き、固定合意は値上がり分だけを外す、という違いで区別しましょう。いずれも、自社株の後継者への集中と他の相続人の遺留分との衝突を、あらかじめ解消しておくための仕組みです。
応用
もう一問、納税猶予制度の骨格を確かめましょう。
非上場株式等についての相続税の納税猶予制度における一般措置と特例措置について、対象となる株式の範囲と相続税の納税猶予割合はそれぞれどう異なるか。
答え合わせ
一般措置は総株式数の3分の2までの株式が対象で、相続税の納税猶予割合は80%です。特例措置は全株式が対象で、猶予割合は100%です。つまり特例措置では、要件を満たす限り、承継した自社株式に係る相続税の全額の納税が猶予されます。ただし特例措置は時限的な制度で、特例承継計画の提出と期限内の承継が前提となるため、適用期限の確認が欠かせません。また、猶予は免除ではなく、雇用の維持や事業の継続といった要件を満たさなくなれば、猶予されていた税額を利子税とともに納付する必要があります。「全部か3分の2か、100%か80%か」という対比と、「猶予であって当然の免除ではない」という性質が、この制度の判断の軸です。
分からなかった点・気になった点
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この章の問題を解く
章のまとめへ- 借地権を設定して貸している土地の評価解く
- 貸付事業用宅地等の限度面積と減額割合解く
- 路線価方式で宅地の自用地評価額を求める解く
- 自分の土地に貸家を建てた敷地の評価解く
- 限度面積を超える自宅敷地の小規模宅地等の特例解く