事業と経営
会社設立と法人成りの判断、株式会社の機関と株主有限責任という会社法の基礎、M&Aと企業再編・清算の枠組みを判断できるようになります。
ねらい
カリキュラムの締めくくりとして、事業そのものの器と出口を学びます。2級で新たに加わる項目です。このレッスンを終えると、個人事業の法人成りの利点と負担が説明でき、株式会社の機関設計と株主有限責任という会社法の骨格が分かり、株式公開・M&A・企業再編・清算という事業の出口の選択肢を判断できるようになります。
ストーリー
個人でデザイン事務所を営む川瀬さんは、取引先の拡大を機に「会社にしませんか」と勧められました。「会社にすると何が変わるのか。設立は大変なのか。将来、事業をやめたり売ったりするときはどうなるのか」。事業の器の選択は、税金・責任・信用・承継のすべてに関わります。FPの顧客には経営者も多く、この基礎知識が相談の土台になります。
会社設立と法人成り
株式会社は、定款を作成して公証人の認証を受け、出資の履行と設立の登記によって成立します。資本金は1円からでも設立でき、発起人が全株式を引き受ける発起設立が一般的です。株式会社のほかに、設立費用が低く内部の設計が柔軟な持分会社(合同会社など)という形態もあります。
個人事業を会社にすることを法人成りといいます。利点と負担の両面で判断します。
| 観点 | 法人成りの主な効果 |
|---|---|
| 税金 | 所得が大きいほど、超過累進の所得税より比例税率の法人税が有利になりやすい。経営者への給与に給与所得控除が使える。欠損金の繰越期間が長い |
| 信用・資金調達 | 対外的な信用が高まり、取引や採用、融資で有利になることがある |
| 社会保険 | 厚生年金・健康保険への加入が義務になる(保険料の会社負担が生じる) |
| 負担 | 設立費用・登記、赤字でも生じる法人住民税の均等割、決算・申告の事務負担 |
タックスプランニングの章で学んだ法人税・法人住民税の知識が、この判断の材料になります。
会社法の基礎
株式会社の骨格として、次の点を押さえます。
- 株主有限責任: 株主は、引き受けた株式の出資額を限度としてのみ責任を負います。会社の債務について、株主が個人財産で弁済する義務はありません(実務では、中小企業の借入れに経営者個人が保証人となることで、この原則が事実上修正されている点も知っておきます)。
- 機関設計: すべての株式会社に株主総会と取締役が必要です。株主総会は会社の基本事項を決める最高機関で、取締役会や監査役の設置は、公開会社などを除き任意です。取締役の人数は、取締役会を置かない会社では1人でも構いません。
- 株式の譲渡制限: 中小企業の多くは、株式の譲渡に会社の承認を要する譲渡制限を定款で定めています(非公開会社)。株式の分散を防ぎ、事業承継の設計を支える仕組みです。
事業の出口(公開・M&A・再編・清算)
- 株式公開(IPO): 証券取引所に株式を上場し、市場から資金を調達できるようにすることです。創業者利益の実現や知名度の向上が得られる一方、上場の審査・維持のコストと、開示や内部管理の負担を負います。
- M&A: 会社や事業を売買することです。株式譲渡は、株式を売買して経営権ごと会社を移す手法で、会社の資産・負債・契約は包括的にそのまま引き継がれます。事業譲渡は、事業に必要な資産・負債・契約を個別に選んで売買する手法で、譲り受ける側は必要な部分だけを取得できます。後継者のいない中小企業の事業承継の手段としても、M&Aは広く使われています。
- 企業再編: 複数の会社をひとつにする合併、事業部門を切り出す会社分割、株式交換・株式移転などがあります。一定の要件を満たす組織再編には、税制上、資産を簿価で引き継ぐ扱いがあることをタックスプランニングの章で触れました。
- 清算: 会社を解散し、財産を換価して債務を弁済し、残余財産を株主に分配して法人格を消滅させる手続きです。残余財産の分配のうち資本を超える部分は、株主にとって配当と同様の課税を受けます。
M&Aの2手法は、引き継ぐ範囲の違いで整理できます。
| 観点 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
| 引き継ぐ範囲 | 資産・負債・契約を包括的にそのまま | 必要な資産・負債・契約を個別に選んで |
| 法人格 | そのまま存続する | 買い手が必要な部分を取得する |
| 手続き | 比較的簡単 | 契約・許認可の移転を個別に行う |
| 債務 | 帳簿に載らない債務も引き継ぐことがある | 不要な債務を切り離せる |
ポイント
株式譲渡は会社まるごとの包括承継、事業譲渡は選んだ部分だけの個別承継という違いが、M&Aの手法として試験で問われます。
注意
株主有限責任は原則ですが、中小企業では経営者個人が借入れの連帯保証人となる慣行があり、オーナー経営者に限っては有限責任が事実上修正されている点に注意します。
会計制度の面では、上場会社を中心に国際的な会計基準への対応や開示の充実が進んでおり、決算書の読み方(決算書と法人税申告書のレッスン)の重要性は増しています。
例題
次の記述が適切か、不適切かを考えてみましょう。
株式会社の株主は、会社の債権者に対して、その保有する株式の引受価額を限度とする有限責任を負うにとどまり、会社の債務について個人財産をもって弁済する義務を負わない。
答え合わせ
適切です。株主有限責任は株式会社の根幹の原則で、株主のリスクは出資した金額が戻らないことに限定されます。この原則があるからこそ、広く出資を募ることができます。ただし実務では、中小企業が金融機関から借り入れる際に、経営者個人が連帯保証人となる慣行があり、オーナー経営者に限っては有限責任が事実上修正されている場面が多いことも、FPとして知っておくべき現実です。原則としての有限責任と、実務での経営者保証を区別して理解しましょう。
応用
もう一問、M&Aの手法の違いを考えてみましょう。
後継者のいないA社のオーナーは、会社の売却を検討している。買い手のB社への「株式譲渡」による方法と「事業譲渡」による方法では、引き継がれる範囲がどう異なるか。
答え合わせ
株式譲渡では会社の全部が包括的に、事業譲渡では選んだ部分だけが個別に引き継がれます。株式譲渡は、オーナーが保有する株式をB社に売却する方法で、会社という法人格はそのまま存続し、資産・負債・契約・従業員との関係も原則としてそのまま引き継がれます。手続きが比較的簡単な反面、帳簿に載らない債務も引き継ぐリスクがあります。事業譲渡は、事業に必要な資産や契約を個別に選んで売買する方法で、買い手は必要な部分だけを取得でき、不要な債務を切り離せますが、契約や許認可の移転手続きを個別に行う負担があります。オーナー個人にとっては、株式譲渡の対価は株式の譲渡所得(申告分離課税)になるという、金融資産の税務とのつながりも確かめておきましょう。
用語の確認
相続・事業承継で学んだ用語を、カードで確かめましょう。用語を見て意味を思い出し、カードを押して答え合わせをします。
表 非上場株式等に係る贈与税・相続税の納税猶予制度
分からなかった点・気になった点
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この章の問題を解く
章のまとめへ- 借地権を設定して貸している土地の評価解く
- 貸付事業用宅地等の限度面積と減額割合解く
- 路線価方式で宅地の自用地評価額を求める解く
- 自分の土地に貸家を建てた敷地の評価解く
- 限度面積を超える自宅敷地の小規模宅地等の特例解く