不動産の相続対策
評価額と時価の差を活かす課税価格対策、贈与の特例を使う移転対策、延納・物納に備える納税対策、遺言と代償分割による遺産分割対策を組み立てられるようになります。
ねらい
これまでに学んだ評価と税の知識を、相続対策として組み立てます。このレッスンを終えると、相続対策を課税価格対策・移転対策・納税対策・遺産分割対策の4つに整理でき、不動産の評価の仕組みを使った対策の効果とリスクを説明できるようになります。
ストーリー
賃貸業を営む山岸さん(75歳)は、自宅と複数の土地を持ち、相続税の負担と、子どもたちの間の分けにくさを心配しています。「土地にアパートを建てると相続税が下がると聞いたが、本当か。それより、そもそも子どもたちがもめずに分けられるだろうか」。相続対策は節税だけではありません。分割・納税・節税の3つの備えをそろえてこそ、対策と呼べます。
相続対策の全体像
相続対策は、目的別に4つに整理できます。
- 課税価格対策: 財産の相続税評価額を引き下げる対策です。
- 移転対策: 生前贈与により財産をあらかじめ移す対策です。
- 納税対策: 相続税を納める資金を準備する対策です。
- 遺産分割対策: 争いなく分けられるようにする対策です。
ポイント
相続対策は節税だけではありません。分割・納税・節税の3つの備えをそろえてこそ対策と呼べる、という全体像が出題の前提になります。
課税価格対策(評価の仕組みを使う)
不動産の相続税評価額は時価(実勢価格)より低いのが通常で、さらに貸すことで評価が下がります。前のレッスンの評価の式が、そのまま対策の道具になります。
- 現金で賃貸不動産を取得する: 現金1億円は1億円で評価されますが、土地は路線価(公示価格の8割水準)、建物は固定資産税評価額で評価され、さらに貸せば貸家建付地・貸家の評価減が働きます。
- 更地に貸家(賃貸アパート)を建てる: 土地の評価が自用地評価額から貸家建付地評価額に下がり、あわせて小規模宅地等の評価減の特例(貸付事業用200平方メートル・50%)の適用の可能性が生まれます。
- 自宅の敷地に特定居住用の特例(330平方メートル・80%)を最大限使えるよう、取得者の要件(配偶者が取得する場合は無条件など)を踏まえて遺産分割を設計します。
小規模宅地等の評価減の特例は、宅地の使い方で限度面積と減額割合が異なります。混同しやすいので対比で覚えます。
| 区分 | 主な対象 | 限度面積 | 減額割合 |
|---|---|---|---|
| 特定居住用宅地等 | 被相続人の自宅の敷地 | 330平方メートル | 80% |
| 貸付事業用宅地等 | 賃貸アパートなどの敷地 | 200平方メートル | 50% |
計算例で確かめましょう。相続税評価額が1平方メートルあたり20万円、面積400平方メートルの自宅敷地に特定居住用宅地等の特例を使うと、限度面積は330平方メートルなので、20万円×330平方メートル×80%=5,280万円が評価額から減額されます。限度を超える70平方メートル分には特例が及ばない点に注意します。
注意
借入れでアパートを建てても、「借金をしたから」税負担が下がるのではありません。評価が下がるのは貸家・貸家建付地の評価減と特例によるもので、借入金は債務控除として差し引かれるにすぎません。空室の増加(賃貸割合の低下)は評価減も収益も損なうため、需要のない土地への建築はかえって資産を減らします。節税効果だけを強調する提案には、事業としての採算(有効活用のレッスンで学んだNOI利回り)の確認が欠かせません。
移転対策(生前贈与の活用)
贈与と税金のレッスンで学んだ仕組みを、対策として使います。
- 暦年贈与: 基礎控除110万円の範囲での長期・分散の贈与です。生前贈与加算が7年へ延びていくため、より早くから始める重要性が増しています。
- 贈与税の配偶者控除: 婚姻20年以上の配偶者への居住用不動産等の贈与(2,000万円)は、生前贈与加算の対象にもなりません。
- 相続時精算課税: 賃貸不動産を早めに移転すれば、贈与後の賃料収入は受贈者のものになり、相続財産の膨張を抑えられます。加算されるのは原則として贈与時の価額なので、値上がりが見込まれる財産の移転にも向きます。
納税対策
相続税は原則として金銭一時納付であり、財産が不動産に偏ると納税資金が不足します。対策には、延納・物納の活用(物納は相続税だけの制度で、延納によっても納付が困難な場合に認められます)、売却による資金化(相続税の取得費加算の特例を使える期間内の売却が有利)、そして次のレッスンで学ぶ生命保険の活用があります。
遺産分割対策
不動産は物理的に分けにくく、共有にすると将来の処分に全員の同意が必要になり、争いのもとになります。対策の柱は次の3つです。
- 遺言書の作成: 誰に何を承継させるかを明確にします。遺留分に配慮した設計が前提です。
- 代償分割の準備: 特定の相続人(たとえば自宅を継ぐ長男)が不動産を取得し、他の相続人に代償金を支払う分割方法です。代償金の原資として、生命保険が活用できます。
- 分割しやすい資産への組換え: 分けにくい不動産の一部を、生前に売却して金融資産に換えておく方法です。
例題
次の記述が適切か、不適切かを考えてみましょう。
所有する更地に賃貸アパートを建築して貸し付けると、その土地は貸家建付地として評価されるため、更地(自用地)のままである場合と比べて、相続税評価額は低くなる。
答え合わせ
適切です。賃貸アパートの敷地は貸家建付地となり、自用地評価額×(1−借地権割合×借家権割合×賃貸割合)で評価されるため、更地のままより評価額が下がります。建物も貸家として評価減が働き、貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例(200平方メートル・50%)の対象にもなり得ます。ただし、評価減は賃貸経営が成り立っていることの裏返しであり、空室が増えれば賃貸割合の低下で評価減が縮み、収益も悪化します。節税の効果と賃貸事業のリスクを、必ずセットで検討することが助言の基本です。
応用
もう一問、遺産分割対策を考えてみましょう。
Aさんの主な財産は自宅と事業用の土地で、分割しにくい。長男に事業用の土地を継がせたいが、長女との公平も保ちたい。このような場合に使われる遺産分割の方法と、その準備として生命保険が果たす役割を説明しなさい。
答え合わせ
代償分割が使われます。代償分割は、長男が事業用の土地などの現物を取得する代わりに、自分の財産から長女に代償金を支払う分割方法で、分けにくい財産を分割せずに公平を図れます。課題は長男が支払う代償金の原資であり、ここで生命保険が働きます。Aさんが長男を受取人とする生命保険に加入しておけば、相続開始時に長男は保険金を受け取り、それを代償金の支払いに充てられます。死亡保険金は受取人固有の財産として遺産分割の対象にならないため、確実に長男の手元に渡ることも、この設計が有効な理由です。詳しくは相続と保険の活用を学ぶレッスンで扱います。
分からなかった点・気になった点
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この章の問題を解く
章のまとめへ- 借地権を設定して貸している土地の評価解く
- 貸付事業用宅地等の限度面積と減額割合解く
- 路線価方式で宅地の自用地評価額を求める解く
- 自分の土地に貸家を建てた敷地の評価解く
- 限度面積を超える自宅敷地の小規模宅地等の特例解く