不動産の譲渡に係る税金
譲渡した年の1月1日で判定する長期・短期の区別と税率、居住用財産の3,000万円特別控除・軽減税率・空き家特例、相続税の取得費加算を判断できるようになります。
ねらい
不動産を売って利益が出たときの税金を学びます。このレッスンを終えると、譲渡所得の計算と長期・短期の判定ができ、居住用財産の3,000万円特別控除と軽減税率を組み合わせた税額の計算ができるようになり、空き家の特例と相続税の取得費加算という相続がらみの特例を判断できるようになります。
ストーリー
15年住んだ自宅の売却を決めた坂井さんは、売却益に税金がかかると聞いて不安になりました。「長く住んだ家を売っただけで、大きな税金を払うのだろうか」。実は、居住用財産には手厚い特例が用意されており、多くの場合、税負担は大きく軽くなります。特例の要件と計算の順序を正しく踏めるかが、この分野の得点力です。
譲渡所得の計算
土地・建物の譲渡による所得は、他の所得と分離して課税されます(申告分離課税)。課税譲渡所得は次の式で計算します。
課税譲渡所得 = 譲渡価額(収入金額)−(取得費 + 譲渡費用)− 特別控除
取得費は、購入代金や購入手数料に改良費などを加えた金額で、建物は所有期間中の減価償却費相当額を差し引きます。取得費が分からないときや実際の取得費が少ないときは、**譲渡価額の5%**を取得費とできます(概算取得費)。譲渡費用は、仲介手数料・印紙代・取壊し費用など、売るために直接かかった費用です。
長期譲渡と短期譲渡
税率は、所有期間で大きく変わります。判定の基準日が独特で、譲渡した年の1月1日現在で所有期間を数えます。
| 区分 | 所有期間(譲渡年の1月1日現在) | 税率 |
|---|---|---|
| 長期譲渡所得 | 5年超 | 所得税15%・住民税5%(復興特別所得税を含め合計20.315%) |
| 短期譲渡所得 | 5年以下 | 所得税30%・住民税9%(同39.63%) |
注意
実際に持っていた期間ではなく、譲渡した年の1月1日時点で数えることが落とし穴です。たとえば2021年6月に取得した土地を2026年10月に売ると、実際の所有期間は5年を超えていますが、2026年1月1日時点では4年7か月で5年以下となり、短期譲渡になります。長期にしたければ、年をまたいで2027年以降に売る必要があります。
相続や贈与で取得した資産は、被相続人(贈与者)の取得時期と取得費を引き継ぎます。相続直後に売っても、被相続人が長く持っていれば長期譲渡になります。
ポイント
長期と短期は税率が約2倍違います。判定は「譲渡した年の1月1日現在」の所有期間で行い、5年超が長期(合計20.315%)、5年以下が短期(合計39.63%)です。実際に持っていた期間ではなく基準日で数える点が、繰り返し問われます。
居住用財産の特例
自宅(居住用財産)を売ったときは、次の特例があります。いずれも、配偶者や親子など特別な関係者への譲渡には適用されず、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までの譲渡が対象です。
3,000万円特別控除
譲渡所得から最高3,000万円を控除できます。所有期間の長短を問わず使えることが特徴です。
軽減税率の特例
譲渡した年の1月1日現在で所有期間10年超の居住用財産では、3,000万円控除後の課税長期譲渡所得のうち6,000万円以下の部分に、所得税10%(復興特別所得税を含め10.21%)・住民税4%の軽減税率が適用されます(合計14.21%)。6,000万円を超える部分は通常の長期の税率です。3,000万円特別控除と併用できます。
ポイント
3,000万円特別控除は所有期間の長短を問わず使え、軽減税率と併用できます。計算は「控除が先、税率が後」の順序です。まず譲渡所得から3,000万円を差し引き、残った課税長期譲渡所得に税率を掛けます。控除を忘れて全額に税率を掛ける誤りが典型です。
計算例で確かめます。所有期間15年の自宅を売却し、特別控除前の譲渡所得が4,000万円の場合。3,000万円特別控除後の課税長期譲渡所得は1,000万円で、6,000万円以下なので軽減税率が使えます。税額は、所得税・住民税・復興特別所得税をあわせて1,000万円×14.21%で142万1,000円です。
このほか、買換えの特例(課税の繰延べ)や、譲渡損失が出た場合の損益通算・繰越控除の特例(損益通算のレッスンで触れた例外)があります。3,000万円控除・軽減税率と買換え特例は選択適用です。
空き家の特例(被相続人の居住用財産)
相続で取得した被相続人の自宅(空き家)を売った場合にも、最高3,000万円(相続人が3人以上の場合は2,000万円)の特別控除があります。主な要件は、昭和56年5月31日以前に建築された家屋(区分所有建物を除く)で、相続開始の直前に被相続人以外が住んでいなかったこと、令和9年12月31日までの譲渡であることなどです。
相続税の取得費加算
相続した財産を相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで(相続開始からおよそ3年10か月以内)に譲渡した場合、納めた相続税額のうち一定の金額を取得費に加算できます。相続税と所得税の二重の負担を和らげる特例で、確定申告が必要です。
例題
次の記述が適切か、不適切かを考えてみましょう。
2021年6月に取得した土地を2026年10月に譲渡した場合、実際の所有期間は5年を超えているため、この譲渡による所得は長期譲渡所得に区分される。
答え合わせ
不適切です。長期・短期の判定は、実際の所有期間ではなく、譲渡した年の1月1日現在の所有期間で行います。2026年1月1日時点では、2021年6月の取得から4年7か月しか経過しておらず、所有期間5年以下の短期譲渡所得に区分されます。短期の税率は所得税30%・住民税9%と、長期(15%・5%)の約2倍です。年内に売るか年明けに売るかで税率が大きく変わることがあるため、売却の時期の助言はFPの実務でも重要な論点になります。
応用
もう一問、居住用財産の特例を使って税額を計算してみましょう。
Aさんは、所有期間15年(譲渡年の1月1日現在)の自宅を譲渡し、特別控除前の譲渡所得は4,000万円であった。居住用財産の3,000万円特別控除と軽減税率の特例の適用を受ける場合、所得税・復興特別所得税・住民税をあわせた税額(合計14.21%で計算)はいくらか。
答え合わせ
142万1,000円です。まず3,000万円特別控除を差し引き、課税長期譲渡所得は4,000万円−3,000万円で1,000万円になります。所有期間が10年を超えているため軽減税率の特例が使え、課税長期譲渡所得が6,000万円以下なので、その全額に14.21%(所得税10.21%・住民税4%)が適用されます。1,000万円×14.21%で142万1,000円です。特別控除を忘れて4,000万円に税率を掛ける誤りと、軽減税率を使わず20.315%で計算する誤り(203万1,500円)が典型です。「控除が先、税率が後」という順序と、10年超・6,000万円以下という軽減税率の2つの条件を確かめてから計算しましょう。
分からなかった点・気になった点
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この章の問題を解く
章のまとめへ- 返還を要する敷金の収入計上の判定解く
- 消費税が非課税となる貸付けの選択解く
- 譲渡した年の1月1日による所有期間の判定解く
- 居住用財産の特例を併用した税額の計算解く
- 土地と建設資金を出し合う有効活用手法の選択解く