AIプロジェクトの企画と進め方
AIを実際の仕事に役立てるまでの流れを学びます。基礎層では、AIをビジネスに活かすとはどういうことか、プロジェクト全体の流れ、そして小さく試すPoCの役割を身近な例でつかみます。深掘り層では、ウォーターフォールとアジャイルという進め方の型、BPRによる仕事の見直し、そして自社だけで抱えずに外部と組む考え方までを説明できるようになります。
ねらい
このレッスンでは、AIを実際の仕事に役立てるまでの進め方を学びます。
基礎
AIをビジネスに活かすとは何をすることか、プロジェクト全体はどんな流れで進むか、そして小さく試すPoCの役割を身近な例でつかみます。
1. AIをビジネスに活かすとは、どういうことか
AIのビジネス活用とは、AIの技術を使って、会社や店の困りごとを解決したり、仕事をより良くしたりすることです。
大切なのは、AIを使うこと自体が目的ではない、という点です。目的は、あくまで仕事の課題を解決することです。パン屋さんの本当の目的は、売れ残りを減らして、材料のむだをなくすことです。AIは、そのための道具の1つにすぎません。
道具から入ってしまうと、失敗しやすくなります。「話題のAIを使ってみたい」という思いが先に立つと、解決したい課題がぼやけたまま作りはじめてしまいます。できあがったAIが、実際の困りごとに役立たない、ということが起きます。
そこで、はじめに問うべきことは決まっています。「どんな課題をAIのどんな力で、どう解決したいのか」です。この問いにはっきり答えられるかどうかが、出発点になります。
ポイント
AIをビジネスに活かすときは、AIを使うことを目的にしません。解決したい仕事の課題を先に決め、AIをその道具として選びます。
2. AIプロジェクトの全体の流れ
AIを作って役立てるまでの一連の取り組みをAIプロジェクトと呼びます。AIプロジェクトの進め方には、大まかな流れがあります。
はじめに、課題を決めて、目的をはっきりさせます。次に、その課題に関わる人たちの望みを聞き取ります。それから、必要なデータを集め、小さく試作して確かめます。うまくいきそうなら、本格的に開発して、実際の仕事の中で使いはじめます。使いはじめたあとも、性能が落ちていないかを見守り、手入れを続けます。
この流れの中で、はじめに欠かせないのが、関わる人たちの望みを丁寧に聞くことです。この望みをステークホルダーのニーズといいます。ステークホルダー(stakeholder)とは、そのプロジェクトに関わりを持つ人たちのことです。日本語では利害関係者(りがいかんけいしゃ)ともいいます。
パン屋さんのAIなら、関わる人は店主だけではありません。パンを焼く職人、レジを打つ店員、材料を届ける業者、そしてパンを買うお客さんも関わります。それぞれの立場で望むことは違います。職人は「朝の準備がやりやすい数を知りたい」と望み、店主は「売れ残りを減らしたい」と望みます。こうした望みを聞き取らないまま作ると、できあがっても誰も使わないAIになってしまいます。
ポイント
AIプロジェクトは、はじめに関わる人たちの望み、つまりステークホルダーのニーズを聞き取ることから始めます。作る人だけの思い込みで進めません。
3. いきなり作らず、小さく試すPoC
課題と望みがはっきりしても、すぐに本格的な開発には進みません。その前に、小さく試して、本当にうまくいきそうかを確かめます。
この「小さく試して見込みを確かめる段階」をPoCといいます。PoCとは、Proof of Concept(プルーフ・オブ・コンセプト)の頭文字をとった言葉で、ピーオーシーと読みます。日本語では概念実証(がいねんじっしょう)と訳します。考えていることが、実際に成り立つのかを小さく試して証明する段階、という意味です。
なぜ、いきなり本格的に作らないのでしょうか。理由は、AIがうまくいくかどうかを事前に言い切れないからです。AIは、データから学んで性能が決まります。手元のデータで十分な精度が出るかは、実際に試してみないと分かりません。多くのお金と時間をかけて作りきってから「役に立たなかった」と気づくと、損失がとても大きくなります。
そこでPoCでは、少ないデータと短い期間で、試作品を作ってみます。パン屋さんなら、まず過去半年ぶんの売上データだけで、ざっくりした予測を試します。ここで「これなら使えそうだ」と手ごたえがあれば、本格的な開発へ進みます。「思ったより当たらない」と分かれば、課題やデータを見直します。小さく試すことで、大きな失敗を避けられます。
ポイント
PoCは、いきなり本格的に作らず、小さく試して見込みを確かめる段階です。AIは試さないと精度が読めないため、大きな損失を避ける知恵として行います。
ここまでの要点
- AIのビジネス活用では、AIを使うこと自体を目的にせず、解決したい仕事の課題を先に決めます。
- AIプロジェクトの進め方は、課題を決め、関わる人たちの望みを聞き、データを集めて試し、本格開発して運用する流れです。
- いきなり作らず、小さく試して見込みを確かめるPoCを先に行うと、大きな失敗を避けられます。
まずは全体像をつかめれば十分という人は、ここで区切って大丈夫です。「AIは課題解決の道具」「関わる人の望みを先に聞く」「小さく試すPoCから始める」と押さえられていれば、この先の深掘りに進む土台はできています。
発展
ここからは、プロジェクトの進め方の型、仕事のしくみそのものの見直し、そして外部との組み方をもう少しくわしく見ます。前提となる知識がなくても読めるように書きますが、内容は実務に近づきます。
4. 進め方の型:ウォーターフォールとアジャイル
開発の進め方には、大きく2つの型があります。ウォーターフォールとアジャイルです。もともとは、AIに限らず、システムやソフトウェアを作るときの進め方の型です。
ウォーターフォール(waterfall)は、滝という意味の言葉です。計画、設計、開発、検証という工程を上流から下流へ、順番に一度だけ流れていく進め方です。滝の水が上から下へ落ちて戻らないように、前の工程が終わってから次へ進み、基本的には後戻りしません。全体の見通しが立てやすく、大きな計画を管理しやすい利点があります。一方で、途中で要求が変わると、対応しにくいという弱点があります。
アジャイル(agile)は、すばやい、身軽な、という意味の言葉です。小さな単位で、作る、試す、直す、をくり返しながら進める型です。短い期間で試作と改善を回すため、途中で分かったことや、変わった要求を次のくり返しに取り込みやすいのが利点です。
AIプロジェクトは、アジャイルの考え方と相性が良い場面が多くあります。理由は、AIが試してみないと精度の分からない技術だからです。先ほどのPoCのように、小さく試し、結果を見て直す、というくり返しが、AIの開発には自然に合います。ただし、どちらの型が良いかは、プロジェクトの性質によって変わります。作るものがはっきり決まっている場合は、ウォーターフォールが向くこともあります。
理解の確認
ウォーターフォールは、工程を上流から下流へ順番に一度だけ進める型で、後戻りしにくい代わりに計画を管理しやすい進め方です。アジャイルは、小さな単位で作る、試す、直すをくり返す型で、途中の変化を取り込みやすい進め方です。AIは試さないと精度が読めないため、くり返して改善するアジャイルの考え方と相性が良い場面が多くあります。
5. 仕事のしくみから見直す:BPR
AIを入れるとき、今ある仕事のやり方に、そのままAIを付け足すだけでは、効果が小さいことがあります。ときには、仕事の進め方そのものを見直したほうが、大きな効果につながります。
この、業務の進め方を根本から見直して作り直す取り組みをBPRといいます。BPRとは、Business Process Re-engineering(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)の頭文字をとった言葉です。ビジネスの過程を作り直す、という意味です。
たとえば、伝票を手で書き写し、後でまとめて入力する、という手順があるとします。ここにAIを付け足して、手書きの伝票を読み取らせることもできます。しかし、そもそも紙の伝票をやめて、はじめから画面に打ち込む形に変えれば、読み取りの手間自体がなくなります。仕事のしくみから見直すと、こうした大きな改善が見えてきます。
AIの導入は、しばしば仕事のやり方を変える良い機会になります。既存のやり方を守ったままAIを足すのか、しくみごと見直すのかをあわせて考えることが大切です。
理解の確認
BPRとは、業務の進め方を根本から見直して作り直す取り組みです。AIを今のやり方にただ付け足すのではなく、仕事のしくみから見直すと、より大きな効果が得られる場合があります。AIの導入は、その見直しの良い機会になります。
6. 自社だけで抱えない:外部との連携
AIの開発には、専門の知識、たくさんのデータ、計算のための設備が必要です。これらを1つの会社だけでそろえるのは、簡単ではありません。そこで、外部と力を合わせる進め方が広く行われています。
外部と組んで新しい価値を生み出す考え方をオープン・イノベーションといいます。オープン・イノベーション(open innovation)とは、開かれた革新という意味の言葉です。自社の中だけで技術やアイデアを閉じずに、外部の力を積極的に取り入れて、新しいものを生み出す考え方を指します。
外部との連携には、いくつかの形があります。
1つは、大学や研究機関と組む形です。これを産学連携(さんがくれんけい)といいます。産業界と学問の世界が連携する、という意味です。最新の研究の成果や、専門の研究者の知恵を事業に活かせます。
もう1つは、別の会社と組む形です。これを他企業や他業種との連携といいます。自社に無いデータや技術を持つ相手と組むことで、単独ではできなかったことが実現します。異なる業種どうしが組むと、思いがけない新しいサービスが生まれることもあります。
これらの連携は、いずれもオープン・イノベーションの具体的な形といえます。自社だけで抱え込まず、外部の力を取り入れることが、AIの活用を前に進めます。
理解の確認
オープン・イノベーションとは、自社の中だけに閉じず、外部の力を取り入れて新しい価値を生む考え方です。大学や研究機関と組む産学連携や、他企業や他業種との連携は、その具体的な形です。AIの開発は必要な資源が多いため、外部との連携が力を発揮します。
7. 生成AIの業務導入とAIエージェント
ここからは、現在の話題に触れます。AIの社会実装を考えるうえで押さえておくと役に立ちます。
近年は、文章や画像を作り出す生成AIを実際の仕事に取り入れる動きが広がっています。文章の下書き、問い合わせへの応答、資料の要約などに使われています。生成AIの業務導入でも、これまで学んだ進め方は変わりません。目的を先に決め、小さく試し、関わる人の望みを聞く、という基本は同じです。
さらに、人が細かく指示しなくても、目標を与えると自分で手順を考えて作業を進める使い方も現れています。このような、自ら判断して動くAIをAIエージェントと呼びます。エージェントという見方は、第1章で学んだ、環境を知覚して自ら行動する主体、という考え方につながっています。業務にどう活かせるかは、自然言語処理の応用を学ぶレッスンでもあらためて触れます。
理解の確認
生成AIやAIエージェントを業務に入れるときも、目的を先に決めて小さく試す、という基本の進め方は変わりません。新しい技術に飛びつく前に、解決したい課題を見すえることが大切です。
理解度の確認
説明できる項目にチェックを入れましょう。すべて確認できたら、完了ボタンで記録します。
分からなかった点・気になった点
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