リスクマネジメント
純粋リスクと投機的リスクの区別、リスクコントロールとリスクファイナンシングという対処の2本柱を理解し、個人と企業のリスクへの備えを整理できるようになります。
ねらい
リスクにどう向き合い、どう備えるかを体系立てて考えるリスクマネジメントを学びます。このレッスンを終えると、保険が扱うリスクの性質が分かり、リスクへの対処をリスクコントロールとリスクファイナンシングの2本柱で整理して、個人と企業それぞれの備えを設計できるようになります。
ストーリー
パン屋を開業した吉田さんは、開業してはじめて、店を取り巻く心配ごとの多さに気づきました。火事になったら。自分が入院したら。お客さまが店内で転んでけがをしたら。仕入れた小麦の価格が上がったら。「全部に保険をかけるべきなのだろうか」。実は、リスクには保険で備えるべきものと、そうでないものがあります。リスクを見分けて対処を選ぶ考え方が、リスクマネジメントです。
リスクマネジメントの概念
リスクマネジメントとは、リスクを洗い出し、その大きさを評価して、最も適切な対処を選び、実行して見直す一連の活動をいいます。やみくもに保険に入ることではなく、「どのリスクに・どの方法で・どこまで」備えるかを設計することが本質です。
リスクは、性質で2つに分けられます。火災や事故のように損失だけが生じるリスクを「純粋リスク」といいます。一方、価格の変動や新規事業のように損失と利益の両方の可能性があるリスクを「投機的リスク」といいます。保険が主な対象とするのは純粋リスクです。冒頭の吉田さんの例では、火事・入院・来店客のけがは純粋リスクで、小麦の価格変動は投機的リスクにあたります。
注意
保険が主に対象とするのは、損失だけが生じる純粋リスクです。価格の変動や新規事業のように利益の可能性もある投機的リスクは、保険の主な対象ではない点に気をつけます。
リスクマネジメントの手法
リスクへの対処は、大きく2本柱に分かれます。損失の発生そのものに働きかける「リスクコントロール」と、損失が起きたときのお金の手当てを決めておく「リスクファイナンシング」です。
| 柱 | 手法 | 内容 |
|---|---|---|
| リスクコントロール | 回避 | リスクを生む活動自体をやめる |
| リスクコントロール | 損失制御 | 発生の防止と、発生時の損失の軽減を図る |
| リスクコントロール | 分離・分散 | 資産や活動を分けて、一度に全部を失わないようにする |
| リスクファイナンシング | 移転 | 保険などにより、損失の負担を他者に移す |
| リスクファイナンシング | 保有 | 貯蓄や準備金などで、損失を自分で引き受ける |
ポイント
保険への加入は、リスクファイナンシングのうちの「移転」にあたります。消火設備の設置のような発生防止の取り組みはリスクコントロールであり、2つの柱の区別が試験で問われます。
対処の選び方には目安があります。発生の頻度が低く、起きたときの損失が大きいリスク(火災・死亡・賠償など)は、保険による移転が向いています。頻度が高く損失が小さいリスクは、損失制御と保有の組合せが向いています。損失が小さいリスクにまで保険をかけると、保険料の負担が損失の期待値に見合わなくなるためです。
個人をとりまく主なリスクとその管理
個人の暮らしの純粋リスクは、人に関するもの、物に関するもの、賠償に関するものに整理できます。
- 人に関するリスク: 死亡・病気やけが・働けなくなること・介護・長生きによる資金不足があります。死亡には生命保険、病気やけがには公的医療保険を土台に医療保険、長生きには年金や貯蓄で備えます。
- 物に関するリスク: 住まいの火災・自然災害、自動車の事故などがあります。火災保険・地震保険・自動車保険で備えます。
- 賠償に関するリスク: 自転車事故や日常生活で他人にけがをさせるなどのリスクです。個人賠償責任保険で備えます。
企業をとりまく主なリスクとその管理
2級では、企業のリスクまで範囲が広がります。企業の純粋リスクは、次のように整理できます。
- 財産のリスク: 工場・店舗・設備の火災や自然災害による損害です。火災保険などの物保険で備えます。
- 利益のリスク: 災害や事故で営業を続けられず、売上と利益を失うリスクです。休業による損失に備える保険で手当てします。
- 賠償のリスク: 製造した製品や提供したサービス、所有する施設が他人に損害を与えるリスクです。各種の賠償責任保険で備えます。
- 人的リスク: 経営者の死亡による事業への打撃、従業員の労働災害などです。経営者向けの生命保険や、労災の上乗せとなる保険で備えます。
企業のリスクマネジメントでも考え方は個人と同じです。まずリスクを洗い出して評価し、防げるものは損失制御で防ぎ、大きな損失は保険で移転し、小さな損失は保有します。生命保険と損害保険の具体的な活用は、リスク管理と保険を学ぶレッスンで扱います。
例題
次の記述が適切か、不適切かを考えてみましょう。
リスクマネジメントにおいて、工場に消火設備を設置して火災による損失の軽減を図ることは、リスクファイナンシングに分類される。
答え合わせ
不適切です。消火設備の設置は、損失の発生や拡大そのものに働きかける損失制御であり、リスクコントロールに分類されます。リスクファイナンシングは、損失が起きたときのお金の手当てを決めておくことで、保険による移転や貯蓄による保有がこれにあたります。「損失自体に働きかけるのがコントロール、お金の手当てがファイナンシング」という軸で区別しましょう。
応用
もう一問、リスクの性質と対処の選び方を考えてみましょう。
小売業を営むA社は、リスクマネジメントの一環として、次の2つのリスクへの対処を検討している。1つは発生の頻度は低いが発生時の損失が非常に大きい店舗の火災、もう1つは頻度は高いが1件あたりの損失が小さい商品の破損である。それぞれに適した対処はどれか。
答え合わせ
店舗の火災には保険による移転が、商品の破損には損失制御と保有の組合せが適しています。火災のように頻度が低く損失が大きいリスクは、自力で備えるには必要な準備金が大きすぎるため、保険料を払って損失の負担を保険会社に移すことが合理的です。一方、商品の破損のように頻度が高く損失が小さいリスクは、陳列方法の見直しなどで発生を減らし、それでも起きる分は費用として自社で引き受けるほうが、保険料の負担より安く済むのが通常です。リスクの頻度と損失の大きさで対処を選ぶことが、リスクマネジメントの基本になります。
分からなかった点・気になった点
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この章の問題を解く
章のまとめへ- 退院後の再入院を1回の入院と数えるルールの判定解く
- リビング・ニーズ特約で生前給付を受けられる余命期間の選択解く
- 遺族の支出と収入の見込みからの必要保障額の計算解く
- 福利厚生プランで損金にできる保険料の割合の選択解く
- 保険への加入があてはまるリスク対処手法の選択解く