リスク管理と保険
必要保障額の計算と保険証券の読み取りを軸に、家庭のライフステージ別の保険設計と、経営者・従業員のための事業のリスク管理を提案できるようになります。
ねらい
これまで学んだ保険の知識を使って、家庭と事業のリスク管理を設計する方法を学びます。このレッスンを終えると、必要保障額を計算して過不足のない死亡保障を設計できるようになり、保険証券から保障内容を読み取り、経営者と従業員のための保険の使い分けを提案できるようになります。
ストーリー
第二子が生まれた35歳の会社員、内藤さんの相談です。「独身のころに入った保険をそのままにしている。家族が増えた今、保障が足りているのか分からない」。手元の保険証券には、主契約や特約の名前と金額が並んでいますが、読み方が分かりません。保障の見直しは、今の保障を証券から正しく読み取り、必要な保障額と比べることから始まります。
必要保障額の考え方と計算
死亡保障の設計の出発点は、必要保障額の計算です。必要保障額とは、世帯主が亡くなった場合に遺族に必要となる金額のうち、準備が足りていない部分をいいます。
必要保障額 = 遺族の支出総額の見込み −(遺族の収入総額の見込み + 保有資産)
支出には、末子が独立するまでの遺族の生活費(現在の生活費に所定の割合を掛けて見積もります)、その後の配偶者の生活費、子の教育費・結婚援助資金、住居費用、葬儀費用などを積み上げます。収入には、遺族基礎年金・遺族厚生年金などの公的年金、配偶者の勤労収入、死亡退職金や企業の弔慰金を見込みます。
計算例で確かめましょう。遺族の支出総額の見込みが1億2,000万円、遺族の収入総額の見込み(公的年金や配偶者の勤労収入など)が7,000万円、保有資産が1,000万円のケースでは、必要保障額は1億2,000万円−(7,000万円+1,000万円)=4,000万円です。すでに準備できている8,000万円を差し引き、不足する4,000万円だけを保険で手当てします。
ポイント
住宅ローンに団体信用生命保険が付いていれば、世帯主の死亡でローン残債は保険金により完済されます。そのため、必要保障額の支出側に住宅ローンの残債を含めません。ここを二重に数えると保障が過大になります。
必要保障額は、通常、末子が生まれたときに最大となり、子の成長とともに減っていきます。この形に合う保険が、保障が期間の経過とともに減る逓減定期保険や、死亡後に毎月年金を受け取る収入保障保険です。同じ当初保障の平準定期保険より保険料をおさえられます。
ポイント
必要保障額は末子誕生時に最大となり、その後は子の成長とともに減っていきます。この右下がりの形には、保障が逓減する逓減定期保険や、毎月年金形式で受け取る収入保障保険が合い、当初保障が同じ平準定期保険より保険料をおさえられます。
保険証券の読み取り
保障の見直しでは、保険証券から次の点を読み取ります。実技試験(資産設計提案業務)でも、証券の読み取りは定番の出題です。
- 契約者・被保険者・受取人: 誰の保障で、保険金の課税が相続税・所得税・贈与税のどれになる組合せかを確かめます。
- 主契約と特約: 主契約(終身保険など)の保険金額と、定期保険特約・医療特約などの保険金額・給付日額を区別して拾います。主契約を解約すると特約も消滅します。
- 保険期間と払込期間: 特約の多くは更新型で、更新時にはその時点の年齢で保険料が再計算されて上がることを確かめます。
- 支払われる金額の合計: たとえば終身保険200万円に定期保険特約2,800万円が付いた契約で被保険者が死亡すると、合計3,000万円が支払われます。災害死亡のときだけ上乗せされる特約があれば、原因によって受取額が変わります。
家庭のリスク管理
死亡保障・医療保障・老後保障の設計
ライフステージに応じて、必要な保障の中心は移り変わります。
| 時期 | 保障の中心 | 設計の考え方 |
|---|---|---|
| 独身期 | 医療保障 | 大きな死亡保障は不要。医療保険を中心に最低限で |
| 子育て期 | 死亡保障 | 必要保障額が最大の時期。収入保障保険などで厚く、掛捨てを活用 |
| 子の独立後 | 医療・介護・老後 | 死亡保障を減らし、医療・介護と老後資金の準備に切り替える |
死亡保障は必要保障額に合わせて定期的に見直します。子の独立や住宅取得(団体信用生命保険への加入)は、保障を減らせる代表的なタイミングです。
損害保険による家庭のリスク管理
物と賠償のリスクには、住まいに火災保険と地震保険、自動車に自賠責保険と任意の自動車保険(対人・対物賠償は無制限が基本)、日常の賠償に個人賠償責任保険を組み合わせます。個人賠償責任保険は、火災保険や自動車保険の特約として付けられ、家族全員をカバーできるため、単独の契約が重複していないか確認します。
事業活動のリスク管理
生命保険を利用した事業のリスク管理
経営者の死亡は、売上の減少や借入金の返済圧力といった形で会社を直撃します。これに備えるのが経営者向けの生命保険です。
- 事業保障資金の準備: 経営者の死亡に備え、短期の債務の返済資金と当面の運転資金をまかなえる死亡保障を用意します。保険金の受取人を法人とする定期保険や終身保険を使います。
- 役員退職金の準備: 長期平準定期保険などの解約返戻金を役員の勇退時の退職金の原資に充てる設計があります。
- 従業員の福利厚生: 従業員の遺族保障には総合福祉団体定期保険を使います。退職金の準備には、養老保険の福利厚生プラン(全員加入・死亡保険金の受取人は遺族・満期保険金の受取人は法人・保険料の2分の1を損金算入)を使います。
注意
養老保険の福利厚生プラン(ハーフタックスプラン)では、死亡保険金の受取人が従業員の遺族、満期保険金の受取人が法人で、支払保険料の2分の1を損金算入します。受取人の組合せと損金算入の割合を入れ替えて問われやすいので、この3点をセットで覚えましょう。
損害保険を利用した事業のリスク管理
事業の物・利益・賠償・人のリスクには、次の保険を対応させます。
| 事業のリスク | 対応する保険 |
|---|---|
| 建物・設備・商品の損害 | 火災保険などの企業向け物保険 |
| 事故や災害による休業の損失 | 企業費用・利益保険 |
| 製品・仕事の結果による賠償 | 生産物賠償責任保険(PL保険) |
| 施設の欠陥・管理不備による賠償 | 施設所有(管理)者賠償責任保険 |
| 従業員の労災の上乗せ | 労働災害総合保険 |
顧客への提案では、リスクマネジメントのレッスンで学んだ手順どおり、リスクの洗い出しと評価を先に行い、公的な保障・会社の制度で足りない部分に保険を当てはめます。
例題
次の記述が適切か、不適切かを考えてみましょう。
住宅ローンの借入れにあたり団体信用生命保険に加入した場合、世帯主の死亡保障の必要保障額を計算する際には、遺族の支出総額に住宅ローンの残債を含めて計算する。
答え合わせ
不適切です。団体信用生命保険に加入していれば、世帯主が死亡したとき住宅ローンの残債は保険金で完済されるため、遺族が返済を続ける必要はありません。したがって、必要保障額の支出側に住宅ローンの残債は含めません。含めてしまうと必要保障額が過大になり、保険料の払いすぎにつながります。住宅取得と団信への加入は、死亡保障を見直して減らせる代表的なタイミングです。
応用
保険証券の読み取りを試してみましょう。
会社員のAさん(被保険者)は、終身保険(主契約・保険金額200万円)に定期保険特約(保険金額2,800万円)と災害割増特約(保険金額500万円)が付いた生命保険に加入している。Aさんが病気で死亡した場合と、交通事故(不慮の事故)で死亡した場合、支払われる死亡保険金の合計はそれぞれいくらか。
答え合わせ
病気による死亡では3,000万円、交通事故による死亡では3,500万円です。病気で死亡した場合に支払われるのは、主契約の終身保険200万円と定期保険特約2,800万円の合計3,000万円です。災害割増特約は、不慮の事故など所定の災害を原因とする死亡のときに上乗せされる特約なので、病気死亡では支払われません。交通事故による死亡では、3,000万円に災害割増特約の500万円が上乗せされ、合計3,500万円になります。証券を読むときは、どの特約が「どんな原因のとき」に支払われるのかまで確かめることが、読み取りの要点です。
用語の確認
リスク管理で学んだ用語を、カードで確かめましょう。用語を見て意味を思い出し、カードを押して答え合わせをします。
表 生命保険の経理処理
分からなかった点・気になった点
読み込み中です。
この章の問題を解く
章のまとめへ- 退院後の再入院を1回の入院と数えるルールの判定解く
- リビング・ニーズ特約で生前給付を受けられる余命期間の選択解く
- 遺族の支出と収入の見込みからの必要保障額の計算解く
- 福利厚生プランで損金にできる保険料の割合の選択解く
- 保険への加入があてはまるリスク対処手法の選択解く