経営戦略手法
全社戦略のPPMやコアコンピタンス、事業戦略の3つの基本戦略、SWOT分析やバリューチェーン分析といった代表的な経営戦略手法を理解できるようになります。
ねらい
ここから第8章、経営戦略の世界に入ります。このレッスンを終えると、全社レベルの戦略と事業レベルの戦略の代表的な考え方・分析手法を説明できるようになります。
ストーリー
ある文具メーカーは、高級万年筆では大手に勝てないと悟り、「左利き用の文具」に絞り込むことで固定客をつかみました。すべての市場で戦う必要はありません。どこで、何を強みに戦うか。それを決めるのが経営戦略です。
経営戦略の基本的な考え方
経営戦略は、企業理念を土台に、環境の変化に適応しながら企業を成長させる方針です。基本的な考え方として次の用語を押さえましょう。
- 多角化とシナジー効果は、複数の事業を組み合わせ、相乗効果を生む考え方です。
- 規模の経済は生産量の拡大で単位あたりコストが下がること、範囲の経済は複数事業で資源を共用してコストが下がることです。
- イノベーションは新たな価値の創造、チェンジマネジメントは変革を組織に定着させる活動、ダイナミックケイパビリティは環境変化に応じて自社の資源・能力を組み替える力です。
- ベンチマーキングは、優れた他社の事例(ベストプラクティス)と自社を比較して改善する手法です。
- 社会の要請として、SDGs(持続可能な開発目標)や、資源を循環させるサーキュラーエコノミー(循環経済)への対応も戦略の論点です。
全社戦略
全社戦略は、企業全体としてどの事業に資源を配分するかを決めます。他社がまねできない中核の強みをコアコンピタンスと呼び、競争優位の源泉になります。手段としては、企業の合併・買収であるM&A、他社と提携するアライアンス、複数の企業が相互に依存して価値を生む生態系のようなエコシステム、グループ内の間接業務を1か所に集約するシェアードサービス、外部への委託であるアウトソーシングがあります。新事業の資金調達では、インターネットで広く小口の資金を募るクラウドファンディングも使われます。
資源配分の代表的な手法がPPM(プロダクトポートフォリオマネジメント)です。市場成長率と市場占有率の2軸で事業を「花形」「金のなる木」「問題児」「負け犬」に分類し、「金のなる木」で得た資金を「問題児」や「花形」に投資するといった判断に使います。
経験曲線(累積生産量が増えるほどコストが下がる)やCS(顧客満足)も、全社戦略を支える考え方です。
事業戦略:3つの基本戦略
個々の事業がどう戦うかを定めるのが事業戦略です。競争相手に打ち勝つための基本戦略は3つあります。
| 基本戦略 | 内容 |
|---|---|
| コストリーダーシップ戦略 | 低コストを武器に価格で優位に立つ |
| 差別化戦略 | 品質やブランドなど価格以外の価値で差を付ける |
| 集中戦略 | 特定の市場・顧客層に経営資源を集中する |
冒頭の文具メーカーは集中戦略の例です。このほか、下位企業の差別化を上位企業がまねて無効化する同質化戦略、競争のない新しい市場を切り開くブルーオーシャン戦略があります。投資家の視点では、環境・社会・企業統治に配慮した企業に投資するESG投資が戦略に影響を与えます。
事業戦略の分析手法
戦略の策定では、外部環境と内部環境を分析して強みと弱みを評価します。
- SWOT分析は、内部の強み(Strength)・弱み(Weakness)と、外部の機会(Opportunity)・脅威(Threat)の4象限で整理する手法です。
- VRIO分析は、経営資源を経済価値・希少性・模倣困難性・組織の4つの観点で評価する手法です。
- バリューチェーン分析は、事業の活動を価値の連鎖として分解し、どの活動が価値を生んでいるかを分析する手法です。
- 成長マトリクスは、製品と市場のそれぞれ既存・新規の組合せで成長の方向(市場浸透、新製品開発、新市場開拓、多角化)を整理する手法です。
例題
次の問いに答えてください。
問1 市場成長率と市場占有率の2軸で事業を分類し、資源配分を判断する手法を何といいますか。
問2 内部環境の強み・弱みと、外部環境の機会・脅威の4つの観点で自社の状況を整理する分析手法を何といいますか。
解答と解説
問1の答えはPPM(プロダクトポートフォリオマネジメント)です。「金のなる木」の資金を成長分野に回すという発想が核です。
問2の答えはSWOT分析です。内部要因(強み・弱み)と外部要因(機会・脅威)の掛け合わせで戦略の方向性を導きます。
応用
本試験を意識した問題を解いてみましょう。
問 競争の基本戦略のうち、特定の市場や顧客層に経営資源を集中して優位を築く戦略はどれでしょうか。次の中から選んでください。
- 集中戦略
- コストリーダーシップ戦略
- 差別化戦略
- 同質化戦略
解答と解説
答えは1の集中戦略です。市場全体ではなく特定のセグメントに絞り込み、そこでの優位を築きます。2のコストリーダーシップ戦略は、市場全体を対象に低コストで価格優位に立つ戦略です。3の差別化戦略は、品質やブランドなど価格以外の価値で広い市場に差を付ける戦略です。4の同質化戦略は、下位企業が打ち出した差別化を上位企業が模倣して無効化する戦略であり、絞り込みによる戦略ではありません。
分からなかった点・気になった点
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