環境・労働・その他の重要な価値:AIと社会の広い課題
AIが環境や雇用、そして人としての尊厳や自律にまで広く影響することを学びます。学習に使う電力の問題や、AIと人の働き方の変化をつかみ、深掘り層では軍事利用や死者への敬意、人間の自律性といった価値と、電力や雇用をめぐる最新の議論まで説明できるようになります。
ねらい
このレッスンでは、AIが社会に広くおよぼす影響のうち、環境、労働、そして人としての価値にかかわる課題を学びます。
この章では、公平性、プライバシー、安全性、透明性といった価値を学んできました。最後のこのレッスンでは、それだけでは収まらない、社会のより広い課題を見ていきます。
基礎
AIが使う電力と環境の問題、AIと人の働き方の変化をつかみます。
1. AIと環境の問題
大きなAIをつくるには、膨大な計算を長い時間くり返します。この計算に使う電気の量をモデル学習の電力消費と呼びます。モデル学習の電力消費とは、AIのモデルを学習させるときに消費される電力のことで、規模の大きなモデルほど、その量は非常に大きくなります。
電力の多くは、燃料を燃やしてつくられ、そのとき二酸化炭素が出ます。二酸化炭素の増加は、気候変動の原因のひとつとされています。気候変動とは、地球の平均気温が長い時間をかけて変わっていく現象で、豪雨や干ばつなど、暮らしへの影響が心配されています。
つまり、AIの発展は、電力の消費を通じて気候変動という地球規模の問題とつながっています。より少ない電力で学習する工夫や、再生可能なエネルギーを使う取り組みが求められています。
ポイント
規模の大きなAIの学習は、モデル学習の電力消費が非常に大きく、その電力が二酸化炭素を通じて気候変動につながります。AIの便利さは、環境への負担と切り離せません。
2. AIと労働の変化
AIは、人の仕事のやり方を大きく変えつつあります。この変化には、助かる面と心配な面の両方があります。
助かる面のひとつが、労働力不足への対応です。労働力不足とは、必要な人手が足りない状態のことで、人口の減る社会では深刻な課題です。AIが単調な作業や大量の処理を引き受ければ、足りない人手を補えます。
このとき目指されるのが、AIとの協働です。AIとの協働(AIとのきょうどう)とは、AIに仕事を丸ごと奪われるのではなく、人とAIがそれぞれ得意なことを分担し、協力して働くあり方のことです。人は判断や創造を担い、AIは繰り返しの処理を引き受ける、といった役割分担が考えられます。
一方で心配されるのが、スキルの喪失です。スキルの喪失(スキルのそうしつ)とは、AIに頼りきることで、これまで人が持っていた技能や知識が、使われないうちに失われてしまうことです。計算をAIに任せ続けるうちに、自分で考える力が衰える、といった心配です。AIを使いこなしながらも、人自身の力を保つ工夫が必要になります。
注意
AIとの協働は、人の仕事を助ける良い面がある一方で、頼りすぎるとスキルの喪失を招きます。助かる面と心配な面は、どちらも同時に見ておく必要があります。
ここまでの要点
- 規模の大きなAIの学習は、モデル学習の電力消費が大きく、気候変動という地球規模の問題とつながっています。
- AIは労働力不足を補い、AIとの協働で人を助ける一方、頼りすぎるとスキルの喪失を招きます。
まずは全体像をつかめれば十分という人は、ここで区切って大丈夫です。「AIは電気を通じて環境とつながる」「AIは仕事を助けるが、頼りすぎる心配もある」と押さえられていれば、この先の深掘りに進む土台はできています。
発展
ここからは、環境や労働のほかにも見過ごせない、人の尊厳にかかわる価値と、電力や雇用をめぐる最新の議論をもう少しくわしく見ます。
3. その他の見過ごせない価値
AIをめぐっては、環境や労働のほかにも、人としての尊厳や社会のあり方にかかわる大切な価値がいくつもあります。代表的なものを4つ見ます。
1つ目はインクルージョンです。インクルージョン(英語で inclusion、包摂)とは、障害の有無や年齢、言葉の違いなどにかかわらず、だれもが取り残されずにAIの恩恵を受けられるようにすることです。一部の人しか使えないAIは、新しい格差を生みます。
2つ目は軍事利用です。軍事利用とは、AIを兵器や戦争に使うことで、人の命にかかわる判断をAIに委ねてよいのか、という重い問いをともないます。国際的にも、大きな議論の的になっています。
3つ目は死者への敬意です。死者への敬意(ししゃへのけいい)とは、亡くなった人の声や姿をAIで再現できるようになったいま、故人の尊厳をどう守るか、という問いにかかわる価値です。遺族の慰めになる面がある一方で、本人の意思を確かめられないまま再現してよいのか、という難しさがあります。
4つ目は人間の自律性です。人間の自律性(にんげんのじりつせい)とは、人が自分のことを自分で考えて決める力のことです。AIのすすめるままに選び続けると、いつのまにか自分で決める力がうすれる心配があります。AIはあくまで人の判断を助けるものであり、人の代わりに決めてしまわないようにすることが大切です。
これらはどれも、正解が1つに決まらない、難しい問いです。だからこそ、社会全体で話し合いながら、どう向き合うかを決めていく必要があります。
理解の確認
インクルージョンはだれもが取り残されずAIの恩恵を受けられること、軍事利用は命の判断をAIに委ねてよいかの問いです。死者への敬意は故人をAIで再現することの尊厳にかかわり、人間の自律性は人が自分で決める力を保つことです。どれも正解が1つに決まらず、社会での話し合いが求められます。
4. 電力とデータセンター、雇用の実証研究
ここからは、最新の議論にふれます。
AIの計算は、データセンターと呼ばれる大きな設備で行われます。AIの利用が広がるにつれ、学習だけでなく、日々の推論、つまりAIを使うたびの計算にも、多くの電力が使われるようになりました。データセンターの電力をどうまかない、どう冷やすかは、環境と経済の両面で重要な課題として議論されています。
雇用への影響についても、研究が進められています。AIが仕事を奪うのか、それとも新しい仕事を生むのか、実際のデータをもとに調べる実証的な研究が各国で行われています。結果は分野や職種によってさまざまで、単純に仕事が減るとも増えるとも言い切れない、というのが現時点の見方です。感覚や不安だけで語るのではなく、こうした実証にもとづいて、労働政策を考えていくことが求められています。
理解の確認
AIの電力消費は、学習だけでなく、日々の推論を行うデータセンターでも大きな課題になっています。雇用への影響は各国で実証研究が進んでおり、結果は分野や職種によってさまざまで、単純に増えるとも減るとも言い切れないのが現時点の見方です。
理解度の確認
説明できる項目にチェックを入れましょう。すべて確認できたら、完了ボタンで記録します。
分からなかった点・気になった点
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